プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

zoom RSS 映画評「戦火の馬」

<<   作成日時 : 2013/05/11 10:49   >>

なるほど(納得、参考になった、ヘー) ブログ気持玉 2 / トラックバック 7 / コメント 4

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年アメリカ映画 監督スティーヴン・スピルバーグ
ネタバレあり

スティーヴン・スピルバーグの監督最新作は、最新技術を駆使したCGアニメ映画「タンタンの冒険/ユニコーン号の秘密」と打って変わり全ての面で実にクラシックな実写映画である。

第一次大戦前夜の英国、貧乏な小作農夫ピーター・ミュランがなけなしの金で農耕に適さないサラブレッドを買う。細君のエミリー・ワトスンは面白くないが、17歳くらいの息子ジェレミー・アーヴァインは母親を見返してやろうとジョーイと名付けた馬を徐々に馴らし、石だらけの畑を耕すまでに至る。
 折しも英国がドイツと戦争を開始、父親はジョーイを軍隊に売り払う。馬に寄り添いたい少年の出征志願は年齢故に退けられ、馬は英軍からドイツ軍へ、ドイツ軍からフランス人農家へ、そして再びドイツ軍へ渡った後、両軍が対峙する中間地帯を走りぬけた末に有刺鉄線にからまって身動きが取れなくなってしまう。

前半から中盤にかけて「ウィンチェスター銃'73」(1950年)や「黄色いロールスロイス」(1966年)のように馬を狂言回しにして人々をリレー的に描いて行く作品かという印象を与えるが、遂に出征を果たしたアーヴァイン君が再び登場するところで後半の凡その筋道が見えて来る。

この中間地帯で思わぬ形で英軍と独軍が協力し合うのは実話を謳っている「戦場のアリア」を思い出させる。あの作品では猫が両軍兵士に可愛がられ、それに加えて歌が一夜だけの奇跡を引き起こす。恐らく第一次大戦まではまだ白兵戦の名残りがあった為こうした風景も実際にあっただろうと想像される。

原作がマイケル・モーパーゴの児童小説なのでファンタジー的扱いであり、背景が1910年代であることからお話はオーソドックスになっているが、印象に残るのはそのオーソドックスさより、演出のクラシックぶりである。
 馬が中間地帯を疾駆する場面はさすがに昨今の映画という印象が強いが、序盤少年が馬を馴らしていく場面は「わが谷は緑なりき」(1941年)のジョン・フォードか、「子鹿物語」(1946年)のクラレンス・ブラウンか、「シェーン」(1953年)のジョージ・スティーヴンズかというタッチを見せるのである。ある人が言うようにモノクロ時代のデーヴィッド・リーンの感覚もあるかもしれない。クレーンの使い方などオーソドックスというよりクラシックである。そして夕陽の中を馬に乗って少年が復員するラスト・シーンは「風と共に去りぬ」(1939年)を見るが如し。

SF映画を撮るやんちゃなスピルバーグも良いが、映画ファンとして別の面を大いに披露している本作は実に愛すべき作品と言いたい。
 この一作に限らず、監督としてのスピルバーグは元々オーソドックスな映画観を維持している人で、「激突!」(1972年)のラスト・シーン以外スローモーションを用いた記憶がないし、細切れショットもジャンプ・カットも場面を繋ぐ捨てショットも使わない。ショットの扱いにおいて良い意味で化石に近い人なのである。

ドイツ人同士でも英語をしゃべっているドイツ人がイギリス人に「英語が上手い」と言われてもねえ。アメリカの観客は余程字幕が嫌いなんだねえ。

テーマ

関連テーマ 一覧


月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 2
なるほど(納得、参考になった、ヘー)
ナイス

トラックバック(7件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
戦火の馬
千軍万馬のジョーイが感動を運ぶ!   ...続きを見る
Akira's VOICE
2013/05/11 11:01
戦火の馬
原題 WAR HORSE 製作年度 2011年 上映時間 146分 原作 マイケル・モーパーゴ 脚本 リー・ホール /リチャード・カーティス 監督 スティーヴン・スピルバーグ 音楽 ジョン・ウィリアムズ 出演 ジェレミー・アーヴァイン/エミリー・ワトソン/デヴィッド・シューリス/ピ... ...続きを見る
to Heart
2013/05/11 12:47
[映画]戦火の馬
2012年、アメリカ 原題:War Horse 原作:マイケル・モーバーゴ 監督:スティーブン・スピルバーグ 脚本:リー・ホール、リチャード・カーティス 出演:ジェレミー・アーバイン、エミリー・ワトソン、デビッド・シューリス、ピーター・ミュラン 少年が育てた馬が戦地に駆り ...続きを見る
一人でお茶を
2013/05/11 13:03
戦火の馬/ジェレミー・アーヴァイン
1982年に発表されたイギリスの作家マイケル・モーパーゴの児童文学をスティーヴン・スピルバーグが映画化した第1次世界大戦下を背景にした馬と人間たちの絆を描いた物語です。短い ... ...続きを見る
カノンな日々
2013/05/11 21:54
ただ、前だけを見て〜『戦火の馬』
 WAR HORSE ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2013/05/12 09:48
『戦火の馬』 ('12初鑑賞26・劇場)
☆☆☆☆− (10段階評価で 8) 3月2日(金) 109シネマズHAT神戸 シアター8にて 13:40の回を鑑賞。 ...続きを見る
みはいる・BのB
2013/05/12 20:12
戦火の馬
馬同士の友情物語 公式サイト。原題:War Horse。マイケル・モーパーゴ原作、スティーブン・スピルバーグ監督。ジェレミー・アーヴィン、エミリー・ワトソン、デヴィッド・シューリス ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2013/05/13 09:59

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
「L.A.コンフィデンシャル」のカーティス・ハンソンだと、大昔のよくできた映画を今の撮影技術で再現したみたいになって、それはそれで安心して楽しめるのでいいんですが、スピルバーグだと過去の映画群から吸収したものをスピルバーグの作品として生まれ変わらせて新生させるような、不思議な力を観ていて感じますね。映像がいつも瑞々しく流れるように動いているところは、トリュフォーを思い出させますし。
この映画、原作が児童文学だったそうで、それもスピルバーグには合っていたと思います。どぎつい描写は出てきませんが、ドイツの少年兵やエミリーとおじいさんを描くことで戦争の酷さをよく表していました。
nessko
URL
2013/05/11 13:14
nesskoさん、こんにちは。

>カーティス・ハンソン
そうかもしれません。

>トリュフォー
彼は、若い時自分が貶したフランス映画の古典的資質を持っていて、後年自覚出来て(特にデュヴィヴィエに対する批判を半ば撤回したようです)古典に回帰していったと勝手に思っているわけですが、彼の作る映画は若い時から自身の意見に反して、古典を自分流に再構築したような、瑞々しさとクラシックさが併存しているんですよね。
大人になったトリュフォーは、スピルバーグに自分と同じ資質を感じたのではないでしょうか。だから、「未知との遭遇」に出演した・・・?
この二人の天才が撮影中にどんな話をしたものか、知りたいものです。

>エミリーとおじいさん
彼女はどうして亡くなったんでしょうね。
オカピー
2013/05/11 16:55
本来はこちらの人なんでしょうね。
『スターウォーズ』や『タンタンの冒険』など大衆小説的な映画で稼いでおいては、純文学的な地味な映画に注ぎ込む・・・・・
両方の作品を作れるところが、天才の所以なのでしょうが・・・

『戦火の馬』・・・DVDを買ってしまいましたよ(^^ゞ
ねこのひげ
2013/05/12 05:04
ねこのひげさん、こんにちは。

「インディ・ジョーンズ」シリーズを作っていた頃から、スピルバーグは実にオーソドックスな人だなと感じていたので、世間がジェットコースター・ムービーとか言って新しいタイプとして歓迎したのには違和感がありましたね。
このシリーズには「ガンガ・ディン」といった戦前の冒険映画から借用した部分もかなりあり、本当に映画好きなんだなあと膝を叩いて観たものです。

しかし、本作みたいに全編がクラシックというのはさすがにこれまでの彼のフィルモグラフィーの例になく、ごく一部を除いて全く昔の映画を観ているようでした。

>DVD
おおっ!
僕は自作ブルーレイということになりました^^
ボンビーなものでTT
オカピー
2013/05/12 21:28

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「戦火の馬」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
文字サイズ:       閉じる