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zoom RSS 映画評「エメランスの扉」

<<   作成日時 : 2013/04/08 09:54   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2012年ハンガリー=ドイツ合作映画 監督イシュトヴァン・サボー
ネタバレあり

本邦劇場未公開作扱いになるが、WOWOWの企画により放映前に映画館数館で無料で観られた。イシュトヴァン・サボーの作品としては小粒と言うべきながら、彼らしい真摯に人間を見つめたドラマなので、もっと広く映画館で公開してきちんと世の評価を仰ぐ価値がある作品だろう。

1960年代、女流作家のマルティナ・ケデックが夫君カーロイ・エペルエシュと郊外の屋敷に越して来る。近所に、猫を外に出さない為と言って自分の家に人を決して入れない老婦人ヘレン・ミレンがいて、交渉の末に彼女を通いの家政婦にする。自分の気に入ったことならどんな辛い仕事もするが、自分の気に入らなかったり都合が付かなければ頑として応じない、偏屈な変わり者なので夫婦は扱いに苦労する。
 言葉を操るのが仕事の信心深い女主人は彼女の皮肉な人生哲学に時にぎゃふんと言わされながら、次第に彼女を信頼するようになり、老婦人も彼女に重い口を開いて若い時の数奇な体験を語るようになる。女流作家が彼女との月日の中で書いた新作が評価されて国から表彰される栄光の日は、倒れて強制入院させられた老婦人にとって、猫の死骸などで大変な状態になっていた家から調度品などを全て出されて消毒される屈辱の日となる。

モチーフは“真の意味で人を救うとはどういうことか”であろう。物語を補いつつ考察してみることにする。
 老婦人は自殺を決意した女友達を説得せずに逝かせる。人の生死の決定は人間では当人以外に権利がないというのが彼女が若い時に味わった経験から形成して来た死生観であり、死線を彷徨った時に助けられて、猫が死んで見苦しくなった部屋に入られしかも大事に守ってきた物を勝手に処分されるのは屈辱に他ならない。

事情により唯一入室を許された女流作家にしても彼女の死生観や人生観を熟知していて忸怩たるものを覚えるが、赦されない(絶交された)まま老婦人に逝かれてしまう。数年後30年前に彼女が救ってやったユダヤ女性と墓を訪れると嵐になるが、「許して」と心から願うと嵐は止んで日が射して来る。

ハンガリーに対するナチスの蹂躙も共産主義者による圧政も老婦人には問題ではない。地道に自ら人の為に働いたキリストは尊敬できるが、日曜日ごとに教会を通うことなどを信心と信じている人々は尊敬しない。彼女にとって真の信仰とは運命に逆らわないことである。

二人の女性の交流を通して浮かび上がって来るのは、相手を理解した上で敬意を捧げる精神の素晴らしさであろうか。老婦人を見殺しにできなかった作家は一般的な意味において当然のことをしたまでであるが、老婦人の孤高な運命論的死生観がそれを許さない。しかし、作家が最後に叫ぶ「許して」は敬意の込められた一言であり、天国に導かれた老婦人はこれに納得して、嵐(怒り)を止める。
 二人のサボーさん(原作者は女流作家のモデルと思われるマグダ・サボー)、本作の理解はこんなところで良いでしょうか? 

お話そのものは難しくないが、何を言わんとしているかを正確に理解若しくは説明するには難儀する作品と言うべし。

奇作「カリギュラ」以来貴族的なイメージが強いヘレン・ミレンがこんな役もこなすとは驚き。その意味で公開中の「ヒッチコック」も期待できます。

監督さん、サボーらないできちんとした映画に仕上げました。

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「エメランスの扉」
ヘレン・ミレンさんの素晴らしい演技が(またもや)見られる。 ...続きを見る
或る日の出来事
2013/04/25 23:02

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
ヘレン・ミレン・・・恐ろしい女優さんです。
『レッド/RED』のときもよかった。
『ヒチコック』・・・大いに期待できます。

数をこなすことや長い間かかわっていると、自然と身についてくる力というものがあるもんです。
質屋や骨董屋の息子は赤ん坊のころから一流の物しか見せないで育てるそうで、そうすると理屈はわからなくても自然と真贋がわかるようになるそうです。
ねこのひげ
2013/04/09 03:10
ねこのひげさん、こんにちは。

こじんまりした作品とは言え、ヘレン・ミレンの演技だけでも観る価値があると思いますので、正式に公開してほしいなあ。

淀川さんの「映画友の会」にもの凄い高校生がいて、大学生の僕らすら全然歯が立たない素晴らしい分析力と文章を書いていました。
僕は「すげえ奴だなあ」と思う一方で、ただ既に2〜3千本の映画を観ていた僕に敵わない部分――特に評価における精度――があると思っておりましたよ。
どんな天才だって、一本の映画して観ていなければ、それが最高傑作であって、次の作品とどちらか良いか、という比較を繰り返していき、審美眼が育ち優れた映画観が出来あがっていくわけですから。
オカピー
2013/04/09 22:25

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