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zoom RSS 映画評「マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙」

<<   作成日時 : 2013/03/01 15:59   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2011年アメリカ映画 監督フィリダ・ロイド
ネタバレあり

ロナルド・レーガンも晩年認知症を患ったそうであるが、同じ時代に世界を牽引した英国最初で今のところ唯一の女性首相マーガレット・サッチャーも何年か前にそう伝えられて驚いたものである。因みに、そんな彼らと時代的に重なる日本国元首相・中曽根康弘氏――高校の大先輩で、在校中に一度じかにお目にかかったことがあり、声の朗々たること他の追随を許さない感を覚えた――はサッチャー女史より7歳も年上ながらまだ元気に頑張っている。

さて、本作はそのマーガレットさんが認知症を患ったほぼ現在(本当の現在はもっと症状が進んでいるらしい)の様子から始まる。監視をくぐり抜けて牛乳を買い、その価格に対し「高くなったものね」という場面をプロローグに置いたのは非常に上手い。というのも彼女は食料品店の娘であって、牛乳を庶民や主婦の象徴として通奏低音的に大袈裟に言えば狂言回し的に扱い、その後の展開と結び付けているからである。
 食料品店の娘であることを示す場面で牛乳を使った後、ビジネスマンと結婚することをもって敷居の高い英国議会に飛び込んで行く若い頃のエピソードがその筆頭。首相になる大分前大臣時代に彼女は学校の牛乳無料配給を停止して庶民の顰蹙を買っている。

2004、5年だろうか恐らく程度としては軽い認知症を患っている彼女は、一人でいる時は先年死んだ夫(ジム・ブロードベント)を幻視して対話し、TVを見ては若い頃や首相時代のことを回想する。
 認知症でなくても回想形式は採用できるし、夫への愛情も表現できる。一時代を作った人物を紹介するにおいて些か感心できない認知症を利用した点を大目に見れば、存命中の人物を描いた伝記映画としてまあまあの出来で、日本で言えばバブル期の時代を一通り復習も出来る。

アルゼンチンとのフォークランド紛争などよく覚えているが、これで人気を挽回した彼女も将来の欧州統合に参画しないという立場を堅持した結果高い人頭税を払わざるを得なくなった庶民から反発を食らって再び人気低迷、遂には保守党党首の座を明け渡すことになる。

子供でも解るように富裕層・低所得者層、男性・女性、都市部・地方において全て公平な政策など実行できない以上、その政策について一々論評しても仕方がないわけで、英国でも珍しい11年という長期政権を維持したのは立派だ。敢えて言えば、彼女が自分の出自である低所得者層に厳しい政策を取ったのは(甘すぎる意見だろうが)一種の親心だったのではないか、そんな気がしないでもない。

彼女は、2000年代のアルカイダのテロをTVで見て、ついこの間まで英国を悩ませ続けてきたIRAのテロを身を持って体験したり、庶民の物凄い抗議活動を目にしたことを思い出す(日本は自民党や民主党が出鱈目な政策や嘘を通しても静かにしている。「消費税、上がってもしようがないですよね」というのが政治家や一部の新聞にミスリードされた、ある程度余裕のある中流階級の声である。低所得者層は諦観で行動を起す元気もない。戦前は米騒動などもう少し激しさもあったのだろうが、日本人は個々ではかつての礼節を失っているのに全体では随分大人しくなった)。

といった次第で、多少の工夫はあるにしても表面的になぞっただけという恨みは残るものの、マーガレットさんにかなり似せたメリル・ストリープの演技を見るだけで料金の大半は取り戻せるだろう。

サッチャーはね、マーガレットというんだ、本当はね・・・

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マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
メリル・ストリーブのものまね番組か?といっていた人がいましたが、サッチャー本人に似てないと、伝記映画にならないですしね。
今年のアカデミー賞の主演男優賞を取ったダニエル・ディ=ルイスは、まさにリンカーンが乗り移ったのではないか?と言われるほどそっくりでしたからね。
三回目だそうで、すごいですね。
ねこのひげ
2013/03/02 02:46
ねこのひげさん、こんにちは。

メリル・ストリープとサッチャーは骨相的には大分違うと思うのですが、メークを含めて良く似せていましたね。感心しました。
ノミネートはされてもなかなか受賞までは行きませんから、映画界ではキャサリン・ヘプバーンと並称される名女優となりましたね。
「ジュリア」の頃の初々しさを思うと信じられないなあ。

リンカーンと言えば、ヘンリー・フォンダもなかなか似せていましたが、本年末には観られるはずのダニエル・ディ=ルイスも楽しみにしております。
オカピー
2013/03/02 22:37

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