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zoom RSS 映画評「夜の大捜査線」

<<   作成日時 : 2013/02/27 15:18   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
1967年アメリカ映画 監督ノーマン・ジュイスン
ネタバレあり

三回目の鑑賞ながら、二回目の鑑賞からも大分時間が経っているし、こんな綺麗な映像で観たのは初めてにつき、まるで初鑑賞のように新鮮な気持ちで楽しめた。

南部の町。北部から来た実業家か殺され、深夜の駅のベンチに座っていた黒人シドニー・ポワチエが連行されるが、署長ロッド・スタイガーが確認した結果本人が言うようにフィラデルフィアの殺人課刑事と判明して釈放されると、死体を検分した後彼の部下が逮捕した白人スコット・ウィルスンが無実であることを即座に宣言してしまう。

僕が記憶していたより本格推理小説寄りの作りで、単純な状況証拠で次々と犯人と決め込んで後で釈放を繰り返す凡人署長と違ってこの殺人課刑事の頭脳明晰さがまず楽しめる。サスペンスとしては今一つという声があるが、そもそもジャンルとしてのサスペンスではなく、事件解決においてサスペンスが何箇所かで構築されているのに過ぎないのだから、変な指摘である。

いずれにしても、本作が後世に残る映画になった所以は、南部における白人の黒人に対する偏見をきめ細かく描写したことである。南軍の旗をナンバーに張り付けた連中の暴力以上に、そうした行動には移さないが、被害者と仲が悪かった地主や食堂のあんちゃんの言葉が恐ろしい。
 そうした差別・偏見を当り前と諦めている黒人と彼らを見下す白人の間で抗争が殆どなかったことが、この町の小さな警察署が殺人に慣れていない事実からも推測できる。北部と南部の依然と続く精神的対立も垣間見える。被害者が北部の人間で、無能な現地警官より黒人刑事を最初に信用するのがその妻リー・グラントというのが象徴的なものとして扱われる。

それだけならこの後大量に作られる社会派映画と変わらない。本作を真に面白くたらしめているのはスタイガーの心理変化を段階的に描いたことと言えるであろう。スタイガーとポワチエの関係は「リーサル・ウェポン」(1987年)時代のハイ・タッチをするような関係には決して至っていない。南部人気質はそんなに簡単には変わらない。ただ、同じ官憲としてこの孤独な白人署長は相手の頭の良さとそれによる偏見のない捜査に素直に脱帽、表敬せざるを得ないのである。

最後に署長は"You take care."と言っている。"You"がなければただ「ごきげんよう」の意味と解釈したほうが良いだろうが、それがあるが為に「気をつけて」という表敬の混じった意味になる。場面によって異なるが、単なる「さよなら」の意味の"Take care."を文字通りの「気をつけて、お大事に」と強い意味で翻訳するケースに突き当ると少々気になる。

監督をしたノーマン・ジュイスンとしては二年前のギャンブラー映画「シンシナティ・キッド」と同じようなタッチ(どちらもレイ・チャールズの歌で始まり、終る)だが、より厳しくなっていて秀逸。

時代はこの後ブラック・パワーが映画界でも本格化し、1970年頃から黒人を主役にした映画が激増する。

言ってみれば、「踊らない大捜査線」でござる。

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スターのお仕事バトン
むずむずと映画大好き魂にまた色を添えてくれそうな バトンが『豆酢館』さんチでUPなされておりましたので ...続きを見る
映画と暮らす、日々に暮らす。
2013/02/27 15:47
夜の大捜査線
(1967/ノーマン・ジュイソン監督/シドニー・ポワチエ、ロッド・スタイガー、ウォーレン・オーツ、リー・グラント、スコット・ウィルソン、マット・クラーク/109分) ...続きを見る
テアトル十瑠
2013/02/27 17:47

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コメント(16件)

内 容 ニックネーム/日時
シドニー・ポワチエは、黒人映画スターの草分けでしょうか。
日本には入ってこなかった黒人向けの映画もあったのかもしれませんが、ポワチエは日本でも名が知られていましたね。
ロッド・スタイガーは「質屋」「夜の大捜査線」「軍曹」と、孤独な男の役が続いて、そのイメージが自分の中では大きいです。
この映画、ウォーレン・オーツが小さい役で出ていたと記憶しますが、物語の舞台となる南部の田舎町の暑くてやってられないようなけだるい雰囲気が忘れられません。
nessko
URL
2013/02/27 18:24
nesskoさん、こんにちは。

>シドニー・ポワチエ
そう言って良いでしょうね。
デンゼル・ワシントンに近い印象で、本作をリメイクするのなら彼が一番でしょう。

>ロッド・スタイガー
「質屋」の演技は凄かったですねえ。

>ウォーレン・オーツ
髭がないと実に貧相な役者で、チンピラ刑事が似合っていました。
しかし、髭がなければ人気が出なかった役者だと思います。

あの頃の映画はムード醸成が巧かった。最近はビデオ撮影のせいか、どうもこの辺りが希薄になっています。
オカピー
2013/02/27 22:35
この映画の撮影中にも、シドニー・ポワチエは、映画に出てくるような嫌がらせを受けたそうで、だから南部で撮影するのはいやだったんだと怒っていたそうです。

保安官が徐々に認めていく姿勢がよかった。最後の駅のシーンはジ〜ンときましたよ。
サスペンスというより、黒人である刑事と南部の田舎の保安官が理解しあうまでを描いた映画だと思いますね。

後年、この映画の犯人役の役者の方が同じように犯人役で出てきた映画を見てビックリしました。
映画のタイトルは忘れましたが・・・(^^ゞ
あちらにも犯人ばかりやる俳優がいるんだ〜と思いましたよ。
ねこのひげ
2013/02/28 04:26
初めてTVの吹き替えでこの映画を観た時に、「探偵物語」のリー・グラントが全然違う印象の女性役で出てきたのでびっくりしたのを覚えています。

犯人役の俳優は、この後「バニシング・ポイント」に出ていたような。
オカマの強盗・・みたいな役だったかな。
十瑠
2013/02/28 09:07
ねこのひげさん、こんにちは。

>だから南部で撮影するのはいやだったんだ
ちゃんと現地でロケをしたんですな^^

>最後の駅のシーン
二人の間にちょっとした空気はあるんですけど、友情と言えば友情なんでしょうね。

>映画のタイトル
十瑠さんによると「バニシング・ポイント」に出ていたとか。
しかし、あの映画は主人公がとにかく車を飛ばす場面と、裸女がオートバイに乗っている場面と、幕切れしか憶えていませんです^^;
何か他の犯罪があったかなあ。
オカピー
2013/02/28 21:07
十瑠さん、コメント有難うございます。

>リー・グラント
ポートレイト・クイズにしようかなとも思いましたが、ちょっと滋味かなと。
「シャンプー」でアカデミー賞助演女優賞を受賞した記憶があります。
割合好きな女優です。

>「バニシング・ポイント」
確かに出ていますね(十瑠さん、偉い!)
しかし、あの映画に車を飛ばすうちに警察に追われることになる主人公以外に犯罪者は出てきましたかなあ。
「狼たちの午後」のクリス・サランドン(スーザン・サランドンの旦那)がアル・パチーノの愛人役のオカマで強烈な印象を残していますが。
オカピー
2013/02/28 21:16
スコット・ウィルソンは「傷だらけの挽歌」で誘拐犯のギャング団のリーダー(というか、長兄?)スリムをやってたのを覚えています。ちょっと病的なかんじの役作りで、原作のJ・H・チェイスの『ミス・ブランディッシュの蘭』の持ち味がうまく出ていました。私が持ってた文庫本は表紙が「傷だらけの挽歌」の写真だったような。
「バニシング・ポイント」は、バイクに乗った裸の女の子しか覚えてないです orz
nessko
URL
2013/02/28 21:41
おはようございます。

スコット・ウィルソンの話題でございますね。^^
私には断然「冷血」のヒコック役が残ってます。
腺病質っぽく流されやすい弱々しさの底に
ねじまがった凶暴さが潜んでいるような役柄が
よく合う役者さんですね。
今も現役ですっかり貫禄お付きなってます。

プロフェッサーがおっしゃられたように、本作、
ヒゲでも無ければどうにも貧相なW・オーツが
セコく覗きもなさる警官役で出てましたね。^^

クリス・サランドンは「リップスティック」で
ヒロインにズドンと撃たれる犯人役だったかと。
スッポンポンでヘッドホンして自作シンセの前で
陶酔している変態教師の役、たしか。(^ ^);

カルト的映画「バニシング・ポイント」の印象も
プロフェッサーと全く一緒でございます。
vivajiji
2013/03/01 06:45
「バニシング・ポイント」ではゲイのカップルが主人公(コワルスキー)の車をヒッチハイクして、乗せてあげたのに拳銃をちらつかせて結局は追い出されるという、ほんの小さなエピソードの出演でした。キモいニコラス・ケイジみたいで、印象深い顔なので覚えていました。
十瑠
2013/03/01 07:44
nesskoさん、こんにちは。

>スコット・ウィルスン
「傷だらけの挽歌」か。懐かしいな。
僕は当時絶好調だったキム・ダービーしか憶えていませんでした。失礼。
ウィルスンが個人的に強い印象を残したのは「華麗なるギャツビー」。
この映画の彼も病的でしたね。

>「バニシング・ポイント」
ふーむ、十瑠さん以外は皆同じみたいです^^
オカピー
2013/03/01 21:08
vivajijiさん、こんにちは。

>腺病質っぽく流されやすい弱々しさの底に
>ねじまがった凶暴さ

うわっ、作家さんみたいです!
それが「華麗なるギャツビー」でも出たわけですね^^

>クリス・サランドン
あの頃はそんな変な役ばかりだったような・・・
元奥様のほうが大分出世されていますが、
TVには多数ご出演されているようで現役バリバリらしいです。
オカピー
2013/03/01 21:14
十瑠さん、こんにちは。

なるほど、なるほど。
それで何となく解りました。
しかし、十瑠さんは繰り返して観る鑑賞法なので、よく憶えていらっしゃる!
僕なんか「本数を自慢するな。一本の映画と格闘せよ」と仰っていた淀川さんから怒られる口でございます。
でも、双葉さんも一回勝負だったらしい。その代わりノート一冊にショットや場面を暗闇の中で記録して家で見返して検討されたそうだから、当方なんぞと比較したら叱られてしまいますけどね。
オカピー
2013/03/01 21:20
オカピーさん、こんばんは。
調子はどうですか?みなさん、ご苦労を抱えながらも一生懸命に生きてらっしゃるので勇気づけられます。
さて、この作品は私にとってはDVDまで購入したお気に入りの作品です。
>南部における白人の黒人に対する偏見をきめ細かく描写したこと・・・
全くですね。「スコルピオ」のウォルター・ミリッシュプロダクションですから、反骨なんですよ。20世紀フォックスやワーナーブラザーズ、ましてMGMじゃ配給はできても(儲かりますから)製作は無理だと思いました。
私は、人間関係を乗り越えれば「良い仕事」ができることを訴えかけている作品なので、そういった意味でも社会派の良作なのだと思います。
不器用なために孤独で嫌われ者であるけれど、自らの使命である愛する郷土を守る地元警察の署長と、差別を克服しようと自らのスキルを挙げようと頑張ってきたエリート黒人刑事の組み合わせは、映画の主題のみに限れば大好きなドロンの男性社会の規範・友情など似たテーマの「さらば友よ」や「ボルサリーノ」などを超えるかもしれません。
警察署長が事件解決のために、「都会」の「黒人」「エリート」の刑事を活かすには、地元の無理解(どころじゃなく差別)とも闘わなければならない。社会的自覚を持って良い仕事をすることはたいへんなことだと思います。熱い映画ですよね。
では、また。
トム(Tom5k)
URL
2014/01/18 20:19
トムさん、こんにちは。

去年の4月にやめた精神安定剤をまた飲んでやりすごしてますが、開き直って徐々に精神状態はよくなりつつあります。来月には平常の90%くらいまで戻るのではないでしょうか。

>不器用
所長は、一見差別主義者にも見えますが、不器用なんですね。
今は多少ましになったとして、1970年代以前アメリカ南部で生きることがいかに大変であるかは様々な映画で嫌というほど見せられてきましたが、本作はストレートに差別を活写するのではなく、北部から来た優秀な黒人刑事と南部の凡人所長という組み合わせが一応手を組むというアングルにより南部に根付いている物凄い差別を鮮やかに浮き彫りにし、素晴らしい作品になっていましたね。
余り直球ですと、散文的になってつまらない結果に終わることも多いですから、この組合せは実に良かった。

アメリカの実際の社会潮流が映画の作り方に大きく影響を与えた頃の作品。その時代性をよく知っているともっと興味深く見られるでしょうね。
オカピー
2014/01/18 20:57
「撮影はイリノイ州でロケ撮影」だったそうですね。
南部ではなく、中西部。やはり色々な苦労があった事でしょう

>南部における白人の黒人に対する偏見をきめ細かく描写

アメリカの共和党候補トランプ氏の人種差別を思い出します。

>シドニー・ポワチエ

まさに名優です。
彼が出演した「野のユリ」も好きです
蟷螂の斧
2016/07/10 12:18
蟷螂の斧さん、こんにちは。

>イリノイ州
中西部は州によって状況が違う気がしていますが、イリノイ州はシカゴという大都市もあって隣接する東部に近い感覚だったのでしょうね。

>トランプ氏
一種の反動でしょうね。
人類の精神史は、三歩進んで二歩下がる、という感じでしょうから。

>「野のユリ」
40年くらい前にTVで見ただけですが、ポワチエは黒人俳優として初めてアカデミー賞を受賞した作品として記憶される作品ですね。
時代環境が変わってきたんですね。
オカピー
2016/07/10 17:10

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