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zoom RSS 映画評「ニーチェの馬」

<<   作成日時 : 2013/02/25 11:42   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2011年ハンガリー=フランス=スイス=ドイツ合作映画 監督タル・ベーラ
ネタバレあり

タル・ベーラが“最後の作品”と称したと言われても、十二年前に群馬の実家に戻ってから所謂ミニシアター系映画を観る機会は極めて限られ、頼りにしているWOWOWもNHKもやってくれない作品が多いので全くピンと来ない。数多の大衆映画を軸に観るうちに映画マニアが騒いでいる“大監督”と突然遭遇することがままあるようになってしまった。映画マニアを自称する僕としては恥ずかしいが、映画批評で飯を食っているわけではないので仕方がない。とにかく、本作は、ハンガリーの“巨匠”タル・ベーラの最後の作品なのである。

ミラノでニーチェが御者に激しく鞭打たれる馬に同情して駆け寄り、その後(為に)発狂したというナレーションを受けて本編が始まる。もの凄い嵐の中を老人デルジ・ヤーノシュが馬に荷台を引っ張らせている。タル監督(ハンガリー人なので最初のタルが苗字であろう、以下人名については同じ解釈)は延々とその様子を撮る。正に神の視点である。
 これが一日目で、皮肉なことに、二日目に出て来る“哲学者”がニーチェよろしく「神は死んだ」旨の発言をしている。厳密に言えば「神も神々も死んだ」と。つまり、一神教キリスト教の考える神だけではなく、全ての概念における神と考えて良い。

以降三日目、四日目と進んでいくが、描かれるのは娘ボーク・エリカが老父を着替えさせ、水汲みに行き、ジャガイモを食べるという行為の繰り返しである。但し、カメラのアングルは毎日少しずつ変わっていて、それが人生の僅かな変化を暗示する。それ以外には、外国へ行くという一団が二人の井戸から勝手に水を盗み飲むエピソードがあるのみである。

その間小止みなく嵐は吹き続け、遂には水が底をつき、唯一の食糧ジャガイモを生で食べるしかなくなり、ランプを灯す火種も尽きてしまう。馬は彼らより早く水を飲まなくなり食べなくなり闇に閉じ込められるようになる。まるで予言者のようではないか。かくして二人は死ぬしかなくなる。

ニーチェは「ツァラストラはかく語りき」において“超人となった人が永劫回帰(始まりも終りもない生を生きる)する”と言っていて、それを全く別の形でスタンリー・キューブリックが映画化したのが「2001年宇宙の旅」(1968年)であるが、本作には超人など出て来ない。
 即ち、一般的には終末論映画それも決定的な一本と言って良いと思うが、監督の視点は案外もっと単純で、人生とは二人が送る毎日のようなものではないかという人生論を展開しているようにも思える。つまり、人類の運命を描いているわけではなく、死に向かって艱難辛苦に生きる人生を単純に描いているだけとも考えられる。死が迫った時嵐が止むのは正にそのことを示してはいまいか。

いずれにしても、映画の99%を占める嵐の中での生活を延々と撮ったモノクロのフィルム撮影の凄さに圧倒される。決して一般的な意味で面白い映画ではないから、来年発表する“一年遅れのベスト10”の1位などにならないように大衆映画ファンの僕としては、今後十カ月の間に本作を凌駕する純娯楽作品の出現に期待している。

そうは言いつつ、本作のような映画を観るにつけ、現在の大衆映画がダメなのは、ビデオ撮影になって現場に緊張感が足りないのも一因ではないかと思う次第。

それでも地球は回っている、もとい、僕は大衆映画ファンである。

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ニーチェの馬
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
最近、ほんとうに海外の映画が観難いですね。
評判がよいからと思っても、時間と場所で難しくて見れないことが多いですね。
まあ、年と共にひねった映画は疲れるので観なくなってきてますけどね。

タラちゃん(タランティーノ)の映画などは、まさに娯楽作品の極みで、ヒットラーなんか殺しちゃいますし、こんどの『ジャンゴ』など黒人が白人を大量虐殺するので、映画館で黒人たちが拍手喝さいだそうですよ。
ねこのひげ
2013/02/26 05:19
ねこのひげさん、こんにちは。

アメリカ映画も日本映画も僕が言っている大衆映画に良いものが少なく、所謂アート系に期待するしかない感さえあるのですが、アート系も1980年代の頃に比べると小手先の作品が多いような気がします。
本作は堂々たるものですが、変化の少ない哲学映画で、寝不足の日に観たら確実に寝ますね(笑)。

>タラちゃん
こちらはタルちゃん(笑)。
タラちゃんも一時のサム・ペキンパーのように過大評価なような気がしますが、面白いことは面白いですね。
でも、結局「レザボア・ドッグス」が一番面白いと思うなあ。
オカピー
2013/02/26 21:37

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