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zoom RSS 映画評「暗殺者のメロディ」

<<   作成日時 : 2012/12/09 10:14   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
1972年イギリス=フランス=イタリア合作映画 監督ジョセフ・ロージー
ネタバレあり

突然わがライブラリーから旧作を。

ジョセフ・ロージーはアメリカ映画界に汚点を残す“赤狩り”で追放された映画監督である。トロツキーがスターリンが権力を握ったソ連から追放されメキシコで暗殺されてから32年経った1972年にこの映画は作られた。30年という時を経てロージーにこの作品を作らせたモチヴェーションが何であったか判然としないが、追われた者同士という共通項が心を動かしたのであろうか? しかし、トロツキーの追放されるまでの経緯については全く触れていないので、それが直接のモチーフではないことだけは一方で確かである。

1940年メキシコ、妻ナターリヤ(ヴァレンティナ・コルテーゼ)と共に厳重に警護されている屋敷に住むトロツキー(リチャード・バートン)がソ連に向けてコメントを発信し続けている。アラン・ドロン扮するソ連から派遣された殺し屋フランク・ジャクソン即ちラモン・メルカデルはベルギー出身の商人と称して秘書ギタ(ロミー・シュナイダー)と懇ろになって慎重に接近を計り、失敗を経て遂にピッケルをトロツキーの頭に振り下ろして暗殺に成功する。

というのがアウトラインだが、勿論サスペンスではない。本作を異色作たらしめているのは殺し屋の性格描写である。この殺し屋はソ連の母親を人質に取られて暗殺を強要されている為好んで殺しに来たわけではない。殺しに対する恐怖に心を占拠されることがあるかと思えば、暗殺の成功による本国での評価といった野望に心が揺さぶられることもあるようだ(数百万人の国民を処刑したスターリンが指導している限り本国に帰るのは即ち死を意味しているのに)。こういう風にロージーは、トロツキーと交互する比較的限られた枠の中で執拗に彼を描写する。何故彼だけに焦点を合せなかったか推測するに、それ自体が決して目的ではないからである。

狙いは、恐らく、トロツキー=ギタ=ジャクソン(メルカデル)の三人によるトロツキズムを支点とした三角関係を描くことにあった。それを裏打ちするのが留置場におけるギタとジャクソンの異様な交錯である。もし敬愛と恋愛が絡んだ政治的三角関係が眼目であるという推測が正しいのであれば、観客の為には描写バランスをもう少し見直さなければならない。先日観た「「」(1982年)でもそうだったように、ロージーにはしかるべきバランスを無視する傾向があるようであり、そこに本作や「鱒」が外面的に余り面白くない作品になった理由がある。

ただ、そのバランス無視が結果としてアラン・ドロンからそれまでとは違った演技を引き出したのではあるまいか。ドロン・ファンにすれば余り格好良くない人物像なので好ましくないかもしれないが、彼の演技史の中では有数の出来映えと思う。allcinemaは「ドロンはバートンに貫録負け」と言っているのは実は逆で、バートンは亡命者のムードが希薄で余り感心しない。寧ろ女優陣二人の方が好調。

闘牛は、どちらが闘牛士か牛かしかと解らないが、トロツキーと暗殺者対決のメタファーだろう。

40年前にトロツキーの名前を憶えたのはこの作品のおかげ。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
『暗殺者のメロディ』A〜俳優アラン・ドロンの演技〜
 今更、当たり前のことなのかもしれませんが、恐らく、アラン・ドロンは演技することが、とても好きなのではないかと思っています。  わたしは、彼が優れた演出家の演技指導に対して、もの凄く従順で素直なのではないかとも察しているのです。 ...続きを見る
時代の情景
2013/01/13 13:35

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コメント(8件)

内 容 ニックネーム/日時
1972年と言えば、あさま山荘事件などがあった時期であり、世界的にも過激派がウロウロしていたころですから、そのあたりと関係があるのかもしれません。
この映画のアラン・ドロンの演技は好きでした。
トロツキーも彼を暗殺者と気が付いていたのではないか?暗殺者の迷い・・・
ピッケルで殴るというシロウトくさく生々しい殺害方法・・・・
衝撃でありました。
ねこのひげ
2012/12/10 06:33
ねこのひげさん、こんにちは。

過激派との関係は無視できないでしょうね。
ロージーが拠点としていた英国近辺でもIRAがいますし。

映画の中のトロツキーは気付いていた可能性があります。やられた時に驚いた表情と「やっぱりな」という表情が交錯していたような気がしました。
オカピー
2012/12/10 21:45
おおっ!久々のドロン作品評ですねっ!うれしいです。
いやあ、この映画、中学生のときにTV放映で初めて観たときは、背筋が凍り付きましたよ(今でも再見するとそうですが)。
>「ドロンはバートンに貫録負け」と言っているのは実は逆・・・
貫禄が必要なのはトロツキーで、殺し屋フランク・ジャクソンに貫禄は必要ない。役者の演技の評価としては、本末転倒な評価だと思いますし、オカピーさんおっしゃるように俳優としての演技は、完全にドロンがバートンを喰っていると思います。撮影開始時はバートンがドロンがまともな演技のできる俳優だと思っていなかったそうですが、トロツキー暗殺の撮影時、バートンに同行していたリズは本当に夫がドロンに殺されたと錯覚して失神したそうですよ。
誰が観てもドロンの演技は凄いと思うのではないかな?「アラン・ドロン」というキャラクターの賛否両論の否のところの色眼鏡は、こういう映画では外して欲しいです。
ドロンが人気絶頂期にこんな作品のオファーを引き受けることに拍手を贈りたくなってきます。
では、また。
トム(Tom5k)
URL
2012/12/13 19:52
トムさん、こんにちは。

手持ちソフトも大分なくなってきました。

何と言っても、ドロンの美を破壊してしまうような最後のストップモーションが鬼気迫りますよねえ。

>殺し屋フランク・ジャクソンに貫禄は必要ない。
本作とは関係ありませんが、無表情の役の演技に対して、表情に感情がこもっていないといった阿呆なコメントもちらほら見ますです。

>色眼鏡
確かに。
二枚目がただ頑張っている、という感じを遥かに超えて、良い演技だったと思います。
オカピー
2012/12/13 21:51
トムさんは中学生の時にTV放映を。僕は封切りを映画館で観たクチですねぇ。
同じ年に「恋」を観て、勢いでこっちも見て。でもあんまり内容は覚えていない。
バートンとドロンの共演というのがかなり珍しい印象でしたね。

すいません。映画について何も書けなくて・・・。
十瑠
URL
2012/12/14 16:00
十瑠さん、こんにちは。

コメントを戴けるだけで嬉しいであります<(_ _)>

トムさんはドロン人気が下降した頃に映画ファンになられた年代ではないかと思います。
僕も映画館で観ましたが、やはり憶えてない。ローティーンには余り面白いと言えるタイプの作品ではなかったですから。
雑誌のクラビアを飾っていた男優ではなかったので、この頃バートンはまだよく知りませんでした。
オカピー
2012/12/14 21:20
オカピーさん。本年もよろしくお願いいたします。
また無断で、こちらの記事の紹介をアップし、しかも直リンしてしまっています。
わたしは新年早々、この暗い作品の記事でスタートしたいと思います(笑)。
昨日はやはりトロツキーが出ている「フリーダ」を鑑賞しました。この作品のトロツキーは、リチャード・バートンのトロツキーに、よく似ていておかしかったですよ。

オカピーさんも、ジュールさんもリアルでこの作品を観ていたのですね。いいなあ。しかし、かなり熱いドロン・ファンでもこの作品はあまり話題にしないようですから、お二人の印象にあまり残っていないのは、当時の映画ファンとしても一般的でしょうし、「パリの灯は遠く」も同様でしょうね。さわぐのはわたしと豆酢さんくらいでしょう。
でも、傑作は傑作、特にわたしにとっては、ドロンのこういう作品には食指を動かされます。
では、また。
トム(Tom5k)
URL
2013/01/13 13:50
トムさん、こんにちは。

余りに持ち上げられて、嬉しいですけど、面映ゆいようなです^^;

>「フリーダ」
出ていましたっけね。忘れていました。
調べたらジェフリー・ラッシュが演じていたんですね^^;

>リアルで
新米映画ファンで、姉とよく映画館に行っていた頃ですね。
お金を払わないと再鑑賞するチャンスがない「高校教師」はその次の年に姉と一緒に観ましたが、中学生には刺激的な作品でした(笑)。

>さわぐのはわたしと豆酢さん
そんなこともないでしょうが・・・(笑)
「パリの灯は遠く」もこちらから探さないと出て来ない作品ですね。
もう少し年をとってお金に余裕があったら買ってでもまた観てみましょうか^^
その前にNHK辺りが出してくれると貧乏人としては助かるのですが。

豆酢さんとこへはたまに遊びに行っていますがこちらからコメントも残していないし、こちらには遊びに来てくれているのかなあ。
オカピー
2013/01/13 20:26

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