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zoom RSS 映画評「ソフィアの夜明け」

<<   作成日時 : 2012/11/23 10:35   >>

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☆☆★(5点/10点満点中)
2009年ブルガリア映画 監督カメン・カレフ
ネタバレあり

ブルガリア映画は滅多に見ることができないが、20年ほど前に見た「略奪の大地」は誠に線の太い史劇の傑作で、鑑賞した年の1位にした記憶がある。かの作品は共産党政権が崩壊する1年前に作られた為一種のプロパガンダが入っていたと思われるものの、オスマン・トルコから受けるブルガリア人の受難と反発を力強く描いて感心させられたのである。多分それ以来の鑑賞となるブルガリア映画はぐっと趣の違うセミ・ドキュメンタリーである。

先進彫刻家フリスト・フリストフは製作に行き詰って陥った麻薬中毒に苦しみ、恋人との関係も悪化を辿る。そんなある夜、弟オヴァネス・ドゥロシャンも加わっているネオ・ナチに襲撃された旅行中のトルコ人一家を救い、娘サーデット・ウルシュ・アルソイと懇意になるが、父権主義的な父親が退院して予定より早く旅立った為に約した再会を果たせない。やがて彼は彼女を追ってトルコに到着する。

端的に言えば、アーティストがパフォーマンスに苦しんで麻薬やアルコールに溺れて自滅型芸術家映画の一種でありながら、彼自身の努力と美しいトルコ娘との出会いとによって僅かに人生の曙光を感じさせる幕切れになっている。配給会社の方もそれを感じて「ソフィアの夜明け」という邦題を付けたのであろう。
 ネオ・ナチの犯行とは言え、「略奪の大地」が描いたオスマン・トルコに端を発するブルガリア人のトルコ人への憎悪が潜在的にあることが解る部分も興味深い。因みに現在のブルガリアにおいてトルコ人が全人口に占める割合は1割弱である。

しかし、僕は余りにドキュメンタリー・タッチの映画を本質的に好まない。感心させられることも少なからずある一方、色々な細工を施し布石を積み上げていく古典的な映画作りの面白さには及ばない感が否めないのである。
 文学や映画の歴史はリアリティーへの挑戦であり、映画は戦前は勿論、1940年代後半のセミ・ドキュメンタリー(実話を基にロケ中心に作った映画のことで、現在僕が使っている意味とは違う)、ネオ・レアリスモ、アメリカン・ニューシネマといった潮流になって進化してきた。現在では最も作り物めいているドラマでもロケを実施して環境描写だけはリアリズムをベースにしている。しかるに、映画で大事なのは本当らしさであり、現実そのものを転写することではないというのが僕の持論である。まして古い映画を数作続けて観た後だけに、本作は、作劇の面白さが希薄に感じられ、少々退屈させられる部分がある。

主演のフリスト・フリストフは実際の彫刻家であり、彼の人生をベースに監督が再構築したようで、ドキュメンタリーとさして変わらない。彼は撮影が完了する前に事故死したらしく、監督が当初考えていたものとは違う幕切れになっている可能性が高いが、その割に余韻を漂わす幕切れになっているようには思う。

ただ芥川龍之介風に言えば「ドキュメンタリー的な、余りにドキュメンタリー的な」で、一般的な意味で面白い大衆映画とは甚だ言いにくい。高級ファンの方はどうぞ。

昔我が家が買った東芝のステレオの愛称が都市名シリーズでソフィアだった、なんてことを今思い出しました。

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mini review 11534「ソフィアの夜明け」★★★★★★★☆☆☆
第22回東京国際映画祭コンペ部門で最高賞の東京サクラグランプリをはじめ、最優秀監督賞と最優秀男優賞に輝いた心を打つ人間ドラマ。元ドラック中毒患者の芸術家の兄と、反抗期の彼の弟の関係を軸に現代社会のもろさを描く。監督は、本作が長編デビュー作となるカメン・カ... ...続きを見る
サーカスな日々
2012/11/23 11:18
ソフィアの夜明け/フリスト・フリストフ
2009年の第22回東京国際映画祭で「東京サクラグランプリ」「最優秀監督賞」「最優秀男優賞」の三冠を達成した作品です。監督を務めたのは本作が長編デビュー作となるブルガリアの新 ... ...続きを見る
カノンな日々
2012/11/23 17:59
ソフィアの夜明け
役所広司、黒木メイサ求め飛んでイスタンブール 公式サイト。英題:Eastern Plays。カメン・カレフ監督、フリスト・フリストフ、オバネス・ドゥロシャン、サーデット・ウシュル・アクソ ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2012/11/23 18:29
ソフィアの夜明け(2009)☆★EASTERN PLAYS
 主人公イツォを演じたフリスト・フリストフは撮影終了直前に他界したそうです。 エンドクレジットには、フリスト・フリストフに捧ぐと出ました。死因はこの主人公と同じく、薬物中毒だったようです。 ブルガリア映画ですが、ほとんど馴染みありませんね。ブルガリアで... ...続きを見る
銅版画制作の日々
2012/11/29 00:09

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
お久しぶりです。
まだレヴューに復帰できていません。
毎日、こんな映画見ましたと、タイトツだけの備忘録はとってるんだけどね(笑)

この映画、僕は「高級ファン」ではありませんが、つまんない運びなのに、なんかじーんと来るものがありました。
主人公を演じた監督の不慮の「死」が、無意識に感じられたのかもしれません。
kimion20002000
URL
2012/11/23 11:24
kimion20002000さん、お久しぶりです。

>備忘録
観る本数が半端でないから、レビューを書かれるのも大変でしょう?
元気でいらっしゃるなら、備忘録だけでも僕は満足です^^

悪い映画とは思わなかったですが、左脳的に分析したがる僕には少々合わないタイプの作品であることは数分で解りましたです(笑)
オカピー
2012/11/23 21:48
原題は知りませんが、五木博之の小説に『ソフィアの秋』というのがあり、あの時代五木博之さんは一世を風靡した小説家でありましたから、あのころソフィアも有名になり、そのあたりからステレオの名前もつけられたかな?

東欧系の映画にはこのようなタッチが多い気がします。
ねこのひげ
2012/11/24 05:37
ねこのひげさん、こんにちは。

>ソフィアの秋
購入したのは1960年代後半で、時代的には大体重なりますね。
他にウィーンとかもあったような気がしますが、その他は何だったかなあ。

>東欧系
我が国やアメリカ、西欧などと違って、芸術追及というより、資金面の理由が大きいのかもしれませんね。
こういう作風は手持ちカメラが多く、今は撮影がビデオではありますし、お金がかからない^^
オカピー
2012/11/24 17:46

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