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zoom RSS 映画評「まほろ駅前多田便利軒」

<<   作成日時 : 2012/09/14 11:48   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・大森立嗣
ネタバレあり

三浦朱門ならぬ三浦しをんが直木賞を受賞した同名連作短編集を大森立嗣が映画化したドラマ。力量は認めるに値しながら後味の悪さが気になっていた彼の作品では初めて良い後味を覚えて素直に喜ばしい。

町田市をモデルにしたまほろ市の駅から歩いて数分のところで、離婚して今は一人で便利屋を営んでいる瑛太が、中学時代(原作では高校時代らしい)にふとしたはずみで小指に大怪我をさせた同級生・松田龍平と再会、大人しかった少年はよく喋る男に変わっていたが、結局家に住み着き、彼のお手伝いをして過ごす。
 数日預かるはずのチワワは依頼主の夜逃げでこれまた彼が暫く飼うことになるが、元の飼い主である少女の依頼を受けて、可愛がってくれる人を探す。
 そこに現れたのがコロンビア人を気取っている娼婦・片岡礼子で、最初のイメージと違ってなかなか気風の良い姉御でルームメイトと一緒に可愛がってくれる。
 彼女の冴えない恋人が麻薬の売人で、便利屋が塾の迎えをしている小生意気な小学生がそのライバルたる高良健吾の麻薬密売に携わっていることに気付いて少年の負担を解放してやると共に、チワワ娼婦の片割れをストーキングしている高良の子分・柄本佑をからかったのが元で松田が大怪我を負う。

まだお話は続くが、本作のベースにあるのは親子の関係である。ここには様々な親子が出てくる。まず瑛太君は浮気相手の種かも知れない子供を愛した末に失い妻と離婚している。松田君は同性愛の美人医師本上まなみに形だけの結婚をして人工授精で子供を授けた後離婚。小生意気な小学生はシングルマザー(?)の見栄の為に迎えに来て貰っている。そして、比較的早めに便利屋二人とラーメン屋ですれ違っている柄本佑は今は亡き儘父の後妻、即ち本当なら縁もゆかりもない母親から金をせびる不良だが、そんな息子でも彼女に必要とされている。

一言で言えば、血の繋がりがあろうが無かろうが一度親子となった者の関係はなまなかでないということ。親子関係はその人間にとって一番最初の社会との関係であり、社会の基礎そのものである。畢竟その関係は社会全般に敷衍され、人間にとって必要とされることが生きている意味なのだ、というメッセージへと昇華していく。スタインベックは「怒りの葡萄」において自分の判断ミスで妻を失い罪悪感に苦しむ孤独な老人に言わせたではないか、「人間、一人では何の役にも立たない」と。
 たかが便利屋と言えども他人から必要とされることが多い。嫌みたらしい刑事・岸部一徳が軽蔑している筈の主人公に「あんな不良でも必要とされている」と言い放つ言葉も彼なりの励ましなのかもしれない。かくして主人公は一度追い出した松田君を呼び戻す。

二人の(?)便利屋に絡んでくる人物の交通整理よろしく時に笑わせながらじーんとさせ、捨てがたい味わいがある。瑛太、松田龍平のコンビネーションも好調と言うべし。

本作よりずっと慌ただしいが、終戦直後患者の為に駆けずり回る医者を主人公にした井伏鱒二の小説「本日休診」を思い出させるものあり。

岸部一徳の言葉に、身に覚えのある僕は涙が出そうになった。そして励まされた。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
『まほろ駅前多田便利軒』
□作品オフィシャルサイト 「まほろ駅前多田便利軒」□監督・脚本 大森立嗣 □原作 三浦しをん□キャスト 瑛太、松田龍平、片岡礼子、鈴木杏、本上まなみ、柄本佑、大森南朋、松尾スズキ、麿赤兒、高良健吾、岸部一徳■鑑賞日 4月23日(土)■劇場 チネチッタ■cyaz... ...続きを見る
京の昼寝〜♪
2012/09/14 12:04
愛だろ、愛。〜『まほろ駅前多田便利軒』
 まほろ市駅前で便利屋稼業を営む多田(瑛太)は、中学の同級生、行天春彦 (松田龍平)と再会する。多田は中学時代の負い目から、「今夜一晩泊めてくれ」 という行天の頼みを聞き入れてしまう。その日か... ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2012/09/14 18:19
まほろ駅前多田便利軒/瑛太、松田龍平
直木賞作家の三浦しをんのベストセラー小説を瑛太、松田龍平の若手実力派の二人の主演にて映画化した作品です。監督は『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』の大森立嗣監督なのです ... ...続きを見る
カノンな日々
2012/09/14 21:53

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
軽トラックの窓をぐしゃぐしゃにされたとき、
多田の吐いたセリフに、絶妙なタイミングで
行天が返す、「似てね〜」。
松田龍平だから設定したものかと思ってましたら
原作にもちゃんとございましたね。^^
鑑賞後、図書館から借りて読み確認しました。
まったく詳しくはないですが、
あれって父君優作さんの特徴的セリフですよね?
三浦さんの書かれたもの、映画にしやすい感じで、
このホンも原作の良さがキチンと踏襲されて、
よくできた作品と思います。
「所詮、女性の描く男性像じゃないか〜」という
辛口評もございましたが、個人的には、
それはそれでいいじゃありませんか、とか思うのです。
vivajiji
2012/09/14 15:14
vivajijiさん、こんにちは。

>「似てね〜」
「太陽に吠えろ!」の優作さんを知らないと笑えないジョークなので、若い人にはピンと来ない人もいたそうな。

あれは、同作における最後の出演の回に撃たれて流れ出る血のついた手を見て思わず放つ言葉であるわけですが、僕は高校の時再放映で観ました。
進学校で芸能人の話題の殆ど出ない我が母校でも話題になったくらい番組自体も人気がありましたし、松田優作扮したジーパン刑事の殉職は既に伝説でした。

僕も配役の為に考えられた台詞が思いましたが、原作にもありましたか。
逆の配役だったら違う意味でまた面白かったでしょう^^

>「所詮、女性の描く男性像じゃないか〜」
確かに、男が見るとうざったい友情・・・とか何とかという表現もありました。allcinemaだったかな。
僕も余り気にしないです。後味の方が大きな問題です。

この監督の父親(麿さん)や弟(大森南朋)が出演していることから言っても、親子の問題がやはり底流にあるようですね。
オカピー
2012/09/14 23:41
これは、本を読みました。本屋で平積みしてあったので、手に取ったら、面白そうで買いました。最近、短編集的な本が多いですな。
便利屋を探偵にしたら、モロ松田勇作になる話でありますな〜
この時の相棒の水谷豊もよござんした。
水谷・・・時代ドラマで歌麿やってますが、これほどの大根とは・・・時代劇はやめたほうが良いようで・・・・

きのうアンジェリーナ・ジョリーの『ソルト』を日本テレビでノーカットで流しておりました。
地上波もついに!であります。
ついでに、CMでのぶつ切りをやめてくれると、もっと視聴率は上がると思うな〜
ねこのひげ
2012/09/15 06:31
ねこのひげさん、こんにちは。

>短編集的な本
多いですね。
また近いうちに、そうした原作を映画化した作品を取上げますので、請うご期待ってなとこです(笑)。

>歌麿
そう言えば、今日スペシャルがありますね。
水谷豊みたいな顔をしているなあと思ったら、ご本人でした^^
時代劇にはいかにも結びつきませんけど、やはりいけませんかあ。

>CMでぶつ切り
それはゴールデンタイムはさすがに無理でしょうねえ。
例のミッドナイト・アート・シアターは十年近く持ったような気がします。あれは大したものでした。字幕の最後まで完全ノーカットですからね。
そのきっかけとなったのがアベル・ガンスの大長編「ナポレオン」のノーカット放送だったんですよ。それから数カ月して始まった記憶があります。

今ゴールデンタイムでノーカット放映が約束されているのは、、スタジオジブリの作品だけですね。
恐らく他局に売らない独占契約の代わりにそういう付帯条件が付いているのでしょう。普通の邦画のように字幕だけTV用に変えていず、「おしまい」という字を以って終ります。
CMだけはさすがに不可というわけにはいかないようですけど。
どうしてもCM前にフェイドアウトするので編集してもやはり気になるわたくしめ。映画はお話が解れば良いというものではないですからね。
オカピー
2012/09/15 17:15

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