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zoom RSS 映画評「神様のカルテ」

<<   作成日時 : 2012/08/30 10:50   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・深川栄洋
ネタバレあり

最近現役医師の作家が増えつつあるのは社会学的に何を意味をするのだろうか。そうした一人である夏川草介の同名小説を深川栄洋が映画化したドラマ。

原作者自身を投影していると感じさせる主人公の医師・櫻井翔は、長野県松本市の本庄病院に勤務する内科医で、救急担当になると基本的にばんばん患者を受けてしまうという真面目で責任感の強い医師である。夏目漱石なかんずく「草枕」が好きで、旅館を改造したらしいアパートに一年前に結婚した山岳写真家の妻・宮崎あおいと暮し、他の住民との関わりも長屋的感覚で深い。

そこへ降りかかったのが、胆のう癌を病む老婦人・加賀まり子への担当医としての責任ある世話と、大学病院の高名教授・西岡徳馬からの医局への誘いで、この二つの間で夏目漱石の登場人物の如く苦悩する。医学の進歩に貢献したいと思うなら医局への移動だが、医者としての生き甲斐を感じるなら地方病院で勤務医を続ける道ということになる。言うまでもなく、「白い巨塔」の主人公の如く出世・名声にしか興味がなければジレンマなど生じない。

原作者も恐らく夏目漱石が好きで、もじったペンネームを付けたと思われ、中でも「草枕」を愛読しているので漱の代わりに草を使ったという直感が働き、少なからず主人公の人物像に投影されているにちがいないと感じたわけだが、序盤からの妙な会話やムードなど漱石をベースにしたアナクロニズムが本作のアングルであり、それが最も顕著に表れるのが夫婦なのに「です・ます」調で話すという設定である。出鱈目な日本語と汚い言葉の氾濫にうんざりしている僕はこういう明治・大正時代のような夫婦の会話を聞くと「ごくせん」とは対照的にひどく安心する。現在が舞台であるが故にユーモラスに感じられる効果もある。「今時こんな夫婦いるか?」といった疑問はナンセンスである。

主人公の「智に働けば角が立つ。情に掉させば流される」という漱石的人生観が、眼目である終盤のジレンマとして具現化され、漱石ファンなら知らず興味津々と見てしまうだろう。僕も漱石が日本人では一番好きな作家だが、ご贔屓作品は主人公とは違って「虞美人草」「それから」「こころ」あたりだろうか。「彼岸過迄」もそこはかとなく良い。そんなわけで作者の眼目とは少々違うだろうが、漱石に思わぬところで遭遇した感があってなかなか興味深く観続けた。

アパートの環境描写や人物の絡み、病院の幼女などやや説明不足(字足らず)だったり、蛇足気味(字余り)だったりして、大いに誉めたくなるほどではないが、病院や医師がテーマになるとやや批判的な要素を盛り込む作品が多い中で、医学・医師の良い部分を見せようとすることは映画として悪いことではない。自分の入院を含めてこの3年間に10くらいの病院に接する機会があった僕のような立場では下手に病院の批判をされたら却ってたまらない思いを抱かずにはいられないからである。

同時に、我が家と縁のあった病院の雰囲気に照らし合せると、地方病院の実像がかなり正確に反映されていると大いに納得させられる一方、主人公の描写自体は勤務医の実態へのちょっとした問題提議になっている。

医者も実際には千差万別で複雑な思いを抱かせるが、真面目な医師は本当に真剣にやってくれる。口調が丁寧で安心させてくれる医師もいれば、明らかに無責任で家族を困惑させる医者もいる。僕ら家族が接した看護師・看護婦は幸いにも感じの良い人ばかりであった。加賀まり子の対する看護風景は、四月から凡そ三ヶ月敗血症による痒み・痛みと闘った父親のそれとそっくりで、さすがに涙が出て来て少々弱った。

本庄病院というから埼玉県のお話かと思いました。

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神様のカルテ
ハートフルで好き。   ...続きを見る
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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
医者も人間だからね〜色々なのがおります。
きのうも、面接に来た女性のお尻を触って逮捕された医師がいたし・・・・
診察した患者とのドラマで小説を書きたくなるのでしょうな〜

話は違いますが、『ウルヴァリン』のヒュー・ジャックマンが息子と富士山に登って、ご来光を拝んだのをツィートして話題になっております。
山小屋で、カレーライスを食べているのを目撃した人もいるそうです。
ねこのひげ
2012/08/31 05:55
ねこのひげさん、こんにちは。

>お尻
医者と病気の種類によっては必要な場合もありますけどね^^;

同じ現役の医師と言っても、作品傾向は違うのが面白い。
一番一般受けするのは海堂尊のミステリー趣味でしょうね。
「孤高のメス」を書いた大鐘稔彦が一番本格医療文学(?)かなあ。

>ヒュー・ジャックマン
僕は彼の名前を覚えたのは「Xメン」ではなく、「恋する遺伝子」「ニューヨークの恋人」といったロマンスでしたよ。
オカピー
2012/08/31 22:05

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