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zoom RSS 映画評「光のほうへ」

<<   作成日時 : 2012/08/03 10:36   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2010年デンマーク 監督トマス・ヴィンターベア
ネタバレあり

人工的なものを全て否定するドグマ95の一員として「セレブレーション」を作った頃に比べると、トマス・ヴィンターベアも大分一般的な商業映画に接近したようで、本作などリアリズム基調ではあるが、ドグマ95が否定したBGMを使ったりある意味人工的なジャンプ・カットを多用したり、現在の作品としてはごく普通と言っても良い作り方に近く(相変わらず自然光には拘っている様子)観やすくなっている。

ローティーンの兄弟が、アルコールに溺れ育児放棄した母親に代わって乳児の末弟の世話をしているが、ちょっと気を抜いた為にある朝赤ちゃんが死んでいるのを発見する。
 20年後くらいだろうか、貧しく臨時宿泊施設で過ごしている兄ヤコブ・セーダーグレンは、町で浮浪者同然となっている昔の恋人の兄モーテン・ローセに再会、色々と面倒を見てあげたのが災いの元、妄想癖がある童貞のローセは彼が宛がった隣の女性を力余って絞殺してしまう。
 片や、弟ペーター・プラウボーグは妻を交通事故で失った後一人で6歳くらいの息子を育てている。母の死で兄と再会した彼は遺産で入って来た金だけでは足りず、麻薬密売に手を出して御用になってしまい、身代わりの殺人容疑で収監された兄と刑務所で思いがけぬ再会を果たす。弟は行き詰って結局刑務所で自殺、片手を切断する程痛めていた為絞殺は出来ないとして釈放された兄は弟の葬儀でその息子と会い、末弟と同じ名前を付けた少年に今後の人生への光を見出す。

北欧は福祉先進国で、僕らの少年時代スウェーデンではバッグを置いたままにしても次の日必ずその場所で見つかるとさえ言われるほど治安が良いと言われていたが、昨今の報道などを見るとどこかの国同様財政悪化で大分破綻をきたしている様子。
 それが如実に表れるのが低所得者層で、既に1990年頃と思われる本作の冒頭に現れるネグレクトの母親も生計に関するところにでも原因があってアル中になったのであろうし、成長したその息子たちが抱える現状は益々悪化している様子が伺え、言うまでもなく、兄が臨時宿泊施設に過ごし、彼の恋人の兄がホームレスみたいな状態になり、弟が自らの麻薬中毒から麻薬売買に目を向けるのも基本的には貧困が原因である。
 勿論本人たちの生活観や意志力の問題のほうが実際には大きな問題なのだが、本作に登場する兄弟は母親からネグレクトされた結果がとても大きいように思われる。仲の良かった兄弟がその後連絡も取り合わなくなるほど疎遠になるのは末男の死が双方に深い傷を与えたからに違いない。二人仲良く暮せていたら違った結果に導かれたことは、兄が甥と意思疎通することで親族の絆にかすかな光を見出す幕切れからも明らかである。

かくして本作はデンマークの低所得者層が直面している現状をジャーナリスティックに反映させ、そうした苦境をも乗り越えて行く原動力となる家族もしくはそれに類する者たちとの絆を実感を伴うエピソード群で描き出し、そこから導き出される普遍的人間関係が感動を呼ぶ。

最近各国で家族の絆を描いた作品が多い。それが何を意味しているのか言わずもがなでしょう。

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コメント(2件)

内 容 ニックネーム/日時
かつて中国も蝿が1匹も飛んでいないとか泥棒がいないとかいう理想の国のような言われ方をしてましたが、時がたってメッキがはがれてみれば理想とはほど遠いパクリ国家であることが露呈しておりますな〜

WOWOWシネマで黒沢明特集をやるようですよ。30作品を一挙にながすとか・・・・
テレビ東京では、『男はつらいよ』を流すそうです。
8月に亡くなった俳優を偲んでということのようで、渥美清さん、大原麗子さんは8月に亡くなったんでありますな〜
ねこのひげ
2012/08/04 06:17
ねこのひげさん、こんにちは。

北欧の福祉国家伝説はある程度真実ではあったのでしょうが、中国のは勿論かの国の大ボラです。

>黒沢明特集
DVDで全部保存版を作りましたが、ブルーレイでまた作らなくちゃ。
ちゃんとハイビジョンでやってくれるんだろうなあ(現在放送自体は全てハイビジョンでもソフトがハイビジョンでないものも昔の作品では少なくありません。ジョン・ウェインの「静かなる男」なんて僕が昔撮ったS−VHSより解像度の低いビデオ画質でしたよ)。

>渥美清
「八つ墓村」の金田一耕助という似合わない役もありました(尤も、原作者の横溝正史によると渥美耕助はイメージに一番近いそうです。確かに原作を読み直してみると、風采はさえない男と強調されていました)が、山田洋次監督作品に出る彼は実に素晴らしい。「黄色いハンカチ」の小さな警官役も出てくるだけで感動しちゃいましたよ。

>大原麗子さん
寅さんとも縁のあった美女にしては余りにも悲しい最期でしたねえ。森進一との離婚会見における記者の詰問に他人事ながら僕は怒ってしまいましたよ。記者に彼女を責める権利はないでしょうに。
オカピー
2012/08/04 21:52

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