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zoom RSS 映画評「狂気の行方」

<<   作成日時 : 2012/08/16 10:11   >>

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☆☆★(5点/10点満点中)
2009年ドイツ=アメリカ合作映画 監督ヴェルナー・ヘルツォーク
ネタバレあり

デーヴィッド・リンチが製作し、ヴェルナー・ヘルツォークが監督をした異色ドラマ。日本未公開だが、ヘルツォークが監督と知って観ることにした。

ところで、ホメロスの大長編叙事詩「イリアス」をベースにしたと言われるアメリカ映画「トロイ」ではギリシャの総大将アガメムノンが戦闘中に死ぬが、これでは後にアイスキュロスが書く悲劇「オレステイア」もソフォクレスの悲劇「エレクトラ」も成立しなくなってしまう。アガメムノンが帰国後不義の発覚を恐れる妻クリュタイムネストラに殺され、彼女は自らの息子オレステスに復讐の為に殺される、という呪われた運命の渦が無視されることになる。勿論「イリアス」の精神そのものも無視されている。
 スペクタクルとして作られた作品であり、アメリカ人には関係ないのだろうが、あれほど有名な文学若しくは神話における挿話の出鱈目な改竄は映画史においても珍しい。ハリウッドは戦前にハッピーエンドの「アンナ・カレーニナ」を作った旧悪もあるが。

何故こんなことから書き始めたかと言えば、本作が演出家ウド・キアーの演出により「オレステイア」の主役オレステスを演じることになった演劇青年マイケル・シャノンが、ペルーからの帰国後、啓司でも受けたか妙な言動が目立つようになり、「サイコ」を彷彿とさせる異様な愛情を注ぐ母親を遂に舞台に使う刀で斬り殺し、人質を取って家に立てこもる事件を起こす、という展開が主人公がオレステスの母殺しに影響され、物語的に重なるように構成されているからである。

刑事ウィレム・デフォーとマイケル・ペーニャが事件収拾に向かい、現場で事件の背景を先のキアーと青年の婚約者たるクロエ・セヴィニーから聴取する、という回想による過去の場面と現場のクロスカッティングによる進行で、刑事の扱いなどはリンチ色が強いが、森で渓流下りをしようかという辺りは正にヘルツォーク調である。

ペルーの自然の神秘=即ち神=に触れ圧倒されてマザコンの自分を変え、消えて行った父親になり代り母親を征伐する、というのが「オレステイア」になぞった解釈だが、彼の行くところ言うところにダチョウや鶏やフラミンゴだのが絡んでくる辺りすこぶる難渋で、とても一回で正確に理解できる映画ではない。少なくともヘルツォークの作品傾向をよく知り、ギリシャ悲劇に通暁し、相当の理解力を持っているか辛抱強くなければ、理解どころか最後まで観続けることもできないだろう。とは言え、必ずしも退屈な作品ではない。
 ヘルツォークのファンには一応お薦めできるが、理解を深めるには観た後でも良いからオレステスについての研究は欠かせまい。が、主人公の異常な言動にコミカルな要素も相当入っていることを付け加えておきたい。

ヘルツォークも「アギーレ/神の怒り」(「フィツカラルド」?)製作中に意見の対立した主演のクラウス・キンスキーを殺そうとしたそうで、相当狂気が入っています。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
狂っているから芸術作品が作れるのか?芸術作品を作りだそうとすると狂うのか?
と議論されるところでありますね。
以前、精神分裂症の人に描かせた絵が紹介され、その人が治っていく過程での絵も紹介されていくテレビ番組がありましたが、病気の時の絵というのは、まさに素晴らしく、治っていくにつれて凡平な絵になってしまいました。
芸術活動にはやはり狂気が必要なのかも・・・・(~_~;)

ねこのひげ
2012/08/17 05:41
ねこのひげさん、こんにちは。

CG時代の映画作家には少ないかもしれませんが、昔の監督さんはめちゃくちゃな人が多かったようですね。今は時代劇に電柱が映っていてもコンピューターでどうにでもなってしまう。ある意味つまらないですねえ。

黒澤明監督が「天国と地獄」を作る時家が邪魔と言って撤去させたとか、ヒッチコックが撮影中に横切った子供を「殺してしまえ」と言ったとか・・・多くは都市伝説ですが、「天国と地獄」の話は確か本当だったはず。
溝口健二の演技指導とか、その他面白い監督さんがいっぱいいました。

NG集を映画の最後に流す時代には考えられない真剣勝負の時代でもありました。

絵画ではゴッホのケースが有名ですが、紹介されていないだけで色々問題のある人が多かったのでしょうね。
オカピー
2012/08/17 21:46
黒沢監督の家を壊したという話は本当ですね。
テレビの番組で取材にいって、じっさいに住んでいた人に聞いてました。
2階部分が写り込むのが気に入らないと壊したようです。
後から、また元通りに立て直してくれたそうですけどね。
雲の位置が気に入らないと、何日も撮影待ちをしていたという話もありますね。
ねこのひげ
2012/08/18 05:51
ねこのひげさん、こんにちは。

わざわざの解説、有難うございます<(_ _)>

>雲の位置
これは「乱」ではなかったかなあ。

「七人の侍」では、ロケ地探しに相当苦労したと担当者が仰っていました。
オカピー
2012/08/18 22:06

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