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zoom RSS 映画評「マイ・バック・ページ」

<<   作成日時 : 2012/07/07 10:09   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2011年日本映画 監督・山下敦弘
ネタバレあり

僕が東京の大学に入ったのは学生運動が終焉して暫く経ってからだが、壁にはまだ赤いスプレーで書かれた文字が生々しく残っていた。数年早く大学に入っていても僕はきっとノンポリを決めていただろう。僕らは学生運動を卒業した先輩たちから“新人類”と名付けられた世代の年長組である。

さて、ボブ・ディランの名曲「マイ・バック・ページ」をディラン本人ではなくカバーしたバーズのバージョンを去年の今頃よく聴いていた。本作CMで奥田民夫+真心ブラザーズ版を聞いたからではなく、この曲の入ったLP「ヤンガー・ザン・イエスタデイ」のLP評を書く為に聴いていたのである。その後オリジナルが入ったディランの「アナザー・サイド・オブ・ボブ・ディラン」も昨年後半よく聴いた。

原作を書いたのは映画の終盤同様未だに「キネマ旬報」に書いている(映画)評論家の川本三郎氏。但し、ディランの曲は原題はMy Back Pagesと複数なので、もしディランの曲から付けたのだとしたら日本語のタイトルに補足的に付けられる場合複数がふさわしい。

東大を出て希望の新聞社に入ったものの学生運動を支持していた東都ジャーナル(即ち朝日ジャーナル)ではなく週刊東都(即ち週刊朝日)に回された妻夫木聡(即ち川本三郎)が、1970年学生運動末期に自分のアイデンティティの為に過激な活動に走ろうとしていた松山ケンイチに接近して彼のグループの活動に半ば協力することになることを承知で取材料を払ってスクープを狙うが、彼らが武器を盗みに入った時に自衛官を殺した上に武器奪取に失敗した為自滅して逮捕された後、証拠を隠滅した罪で執行猶予付きの有罪判決を受けた為会社を懲戒解雇、好きな映画の評論で飯を食うことになる。

学生運動はともかく過激な活動で世を変えようと思うことは、本物であろうと、本作の松山君のようにある意味自分探しの為の粗忽者であろうと、ノンポリの僕はとても賛同できない。一般人は勿論自分たちのポリシーに反するから、或いは権力側に属する者だからと言って殺して良い理由などありはしない。彼のセクトごっこが甘っちょろいことなど、本作にとって実はどうでも良いことである。

本作の目的は、松山君同様に、妻夫木君即ち若き川本氏の本物への憧れが結局成就しない悲しい青春像を描くことと最後まで観ればおぼろげに判って来る。成就しないことが悲しいのではない、そんなインチキで自分の存在を確認しなければならない人間、なかんずく若者が悲しいのである。
 涙はラスト・シーンだけに登場するが、映画の中で涙特に「真夜中のカーボーイ」のダスティン・ホフマンが流す涙は二度も話題になり、妻夫木君が一緒に映画を見に行った高校生アイドル忽那汐里(即ち保倉幸恵)も「きちんと泣ける男の人が好き」と言っている。その四年後僅か22歳で悲惨な自殺を遂げる彼女は人前で泣ける男の正直さ、一種の強さ、覚悟の程に気付いていたようである。

僕の勝手な想像だが、実際はともかく映画の中の川本氏はこれで一段階強くなったに違いないし、ラスト・シーンの涙は自分のいるべきところを確認した或る種の感慨であり、そこに本作が単なるセンチメンタルな回顧ではなく、人間が生きる上で避けられない普遍的な感情を描いていると思われる所以がある。

しかるに、これだけ事実関係が判っていて、かつ、特に具体的に社会的問題を指摘しているわけでもないのに、実名を隠していることは気に入らない。法律大国であるはずのアメリカの映画の大半が(製作会社の法務部門がしっかりしているせいもあって)実名で描いているのに比べると、どうも日本人の必要以上の遠慮深さは見ていて気分がモヤモヤしてくる。それと1970年頃の言葉使いとしては“半疑問もどき”などおかしな点が幾つかあったのも、あの時代に思春期を過ごしていたポスト学生運動世代として少々気になった。

山下敦弘はお得意のおとぼけは一切封印しているが、いつもより少々控え目ながら固定カメラの長回しを使った映像に映画らしい迫力がある。

「仮名手本忠臣蔵」が発表された江戸時代じゃないんだからさ、実名で作ってよ。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
『マイ・バック・ページ』
□作品オフィシャルサイト 「マイ・バック・ページ」□監督 山下敦弘 □脚本 向井康介□原作 川本三郎 □キャスト 妻夫木 聡、松山ケンイチ、忽那汐里、中村 蒼、韓 英恵、長塚圭史、あがた森魚、三浦友和■鑑賞日 6月5日(日)■劇場 チネチッタ■cyazの満足度 ★★★... ...続きを見る
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※ネタバレ注:ラストに触れています。 ...続きを見る
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作家・評論家の川本三郎が自らの体験を綴った同名の回想録を映画化。1969年から72年と言う学生運動が終わりに近付いた時期を舞台に、雑誌記者と活動家の出会いから破滅までを描く。主演は『悪人』の妻夫木聡と『ノルウェイの森』の松山ケンイチ。共演に忽那汐里、中村蒼ほか若手ベテラン共に実力派が揃った。監督は『天然コケッコー』の山下敦弘。 ...続きを見る
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内務官僚の父をもち、麻布高校から東京大学法学部に入学。卒業後は朝日新聞社に入社。 ところが入社して3年目の秋、過激派グループ「赤衛軍」による「朝霞自衛官殺害事件」で犯人隠匿及び証拠隠滅の罪により逮捕され、容疑を認めたため、会社は、即日懲戒免職となった。... ...続きを見る
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マイ・バック・ページ
公式サイト。 川本三郎原作、 山下敦弘監督、妻夫木聡、松山ケンイチ、忽那汐里、山内圭哉、中村蒼、韓英恵、長塚圭史、石橋杏奈、あがた森魚、三浦友和。 評論家川本三郎の自伝的 ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
最近は、日本でもすぐに裁判沙汰ですからね〜
あの時代に参加していた人によれば、部活動気分だったそうですけど、実名だされると不都合な人間も多いのでしょうな〜
ねこのひげ
2012/07/08 04:51
ねこのひげさん、こんにちは。

主人公は勿論、彼の勤めていた企業名など実名でも特に問題があるとも思えないお話でしたがねえ。日本の製作会社がハリウッドのように法務部門がしっかりしていないんでしょう。
オカピー
2012/07/08 17:42
川本三郎の朝日ジャーナル時代の逸話を描いた原作は大好きだったので、これを映画化したら面白いのにと、ずっと思っていました。まさか妻夫木クンが主人公を演じるとは想像していませんでしたが。全共闘世代を描いた映画の場合、当時の若者と現代の若者(役者)とでは、ちょっと顔つき(面構え)が違っていると思うことが多いのですが、長塚圭史は良かったですね。あれは正しく「活動家顔」でした(笑)
放射能情報
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2012/07/23 19:33
放射能情報さん、初めまして。

>妻夫木クン
やはり食文化の変化であの手の草食系の顔が増えてきたのでしょうかねえ。

>長塚圭史
彼は、ふてぶてしいというか、何かをやっていそうな顔をしていますね。怖い顔と言ったら怒られそうですが。
オカピー
2012/07/24 08:19

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