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zoom RSS 映画評「アンチクライスト」

<<   作成日時 : 2012/06/04 10:39   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年デンマーク=ドイツ=フランス映画 監督ラース・フォン・トリアー
ネタバレあり

ラース・フォン・トリアーはとにかく後味の悪い映画を作る。そして、本作を見ると、「ドッグヴィル」のヒロインを神の遣いとし、幕切れを「旧約聖書」の【ソドムとゴモラ】のヴァリエーションであるとした僕の解釈も当らずとも遠からずという印象をもたらす。「ドッグヴィル」には村人に対しざまあみろという印象もなくはなかったが、後味が良いとは言えず、本作はもっと悪い。

男女の交わりの最中に幼児の息子を墜落事故死で失ったシャーロット・ゲンズブールが激しい罪の意識から入院するが回復する兆しがない為、セラピストの夫ウィレム・デフォーが彼らが“エデン”と名付けた森に彼女を連れて行き、二人だけのリハビリを始めるが、魔女を研究していた彼女は次第に悪魔性を発揮して、「捨てられてなるものか」と彼の足に穴を開けて重りを嵌めて、また自らの性器を傷付ける自傷行為に走る。ここに至り遂に夫は妻を殺害し外に出ると、数えきれない多くの女性がこちらに向って登って来るのを見る。

表面的なお話はそれほど難渋ではないものの、聖書やキリスト教に絡む著作に精通し同宗教の精神を把握していないととても理解できない代物で、その昔反キリスト教的である自慰が扱われ性描写がひどくぼかされたことでも相当話題になったらしいイングマル・ベルイマンの「沈黙」(1962年)を観た時の日本人の反応もかくやと思われる。

二人の性交中に雪の降る中幼児が墜落死するプロローグはハイスピード撮影のモノクロ映像が大変美しいが、第一章【悲嘆】第二章【苦痛】第三章【絶望】第四章【三人の乞食】と進行していくうちに激しい(とぼかしの為多くは想像されるだけだが)描写に気絶しそうな気分になる。“三人の乞食”とは実は“悲嘆”“苦痛”“絶望”のことで、これが集結した時に人は死ぬのだと登場人物により説明される。事実、妻を殺した彼が小屋から出て最初に見るのがそのアレゴリーである鹿、狐、カラスである。

ヒロインが魔女を研究するうちに男性により女性が魔女扱いされたのではなく、女性たちが自ずから魔女であったことを悟り、自ら魔女を体現するように見えた後、再びモノクロになったエピローグでぞろぞろと女性たちが斜面を上って来る箇所など、キリスト教が女性を悪者扱いにしていることをトリアーが表現しているようにしか思えないが、実際はどうなのだろうか? Antichristのtに女性のシンボルマーク♀が使われているのもそんな思いを強くさせる。

また、「最後の誘惑」(1988年)でキリストを演じたデフォーがここでもセラピストの形でキリストを演じているように思える。皆様如何でありましょう? そうなるとキリストの無力が半ば表現されている形になり、これだけの力作、出来栄えに拘らずキリスト教圏からの投票が多いIMDbの平均評価点が6.6に留まっているのはむべなるかな。

北欧人は神様問答がお好き?

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内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
このひとにしろ、ハネケにしろ、ギャスパー・ノエ
にしろ観る者ドびっくりさせてほとんど不快沼に
落し込む表現者というのは映画界ならずとも必ず
いらっしゃるわけで。
私の若い頃観たパゾリーニなどもアバウトには
そのお仲間でしょう。男性のプロフェッサーなら
もっと沢山知ってらっしゃるでしょう。
こういう類いを造らねばご自分の精神性が
保たれないという印象を極度に我々に意識
させる監督として私個人としてはフォン・
トリアー氏の強引さは大したもんだと思いますよ。
ただ再度観たいという気は決して起きませんから
こういう映画もあると、そういうジャンルですかね。

本日は久しぶりの松竹映画鑑賞。
そうプロフェッサーのお好きな松竹。^^
「わが母の記」。原田眞人監督。
とてもよかったです。
プロフェッサーは来年あたり
WOWOWでごゆっくり鑑賞を。
こういうのを作れている限り
邦画はまだまだ大丈夫、とか思いました。
vivajiji
URL
2012/06/04 16:39
vivajijiさん、こんにちは。

>ハネケ
不愉快極まりない「ファニーゲーム」が断トツに後味が悪く、この不愉快さを超える映画は将来も出て来ないんじゃないかなあ。

>こういう類いを造らねばご自分の精神性が保たれない
正にフォン・トリアーはその典型でしょうね。
ました本作は曰くがあるようで、色々ともめて途中で製作中止してどん底に落ち込み、また作りなおしてその後遺症のリハビリにしたと聞きます。
二度と観たい気もしませんし、何度観ても理解が深まるタイプの作品でもないでしょうね。

>松竹
あはは^^
確かに大のご贔屓・山田洋次氏がいらっしゃいますし、小津御大もね。
しかし、東映以外は皆それなりに好きですよ〜ん。
松竹を追い出されて東宝で作った成瀬巳喜男も興味深いですし、今村昌平を生んだ日活は彼以外はダメな映画が多いですが、ダメでも日活アクションは憎めない。
60年代の大映の時代劇なんかマカロニ・ウェスタンよりずっと面白いし、監督の腕前も良い。その時代の大映はドラマも良いのが多かったと思いますよ。
いずれにしても五社協定の時代も今は昔。松竹も自社制作は年に数本ですから、寂しいもんです。

>原田眞人監督
初期は見くびっていましたが、彼は良い監督になりました。ここ何作かはなかなかきちんとした印象を受けています。
「母を恋はずや」という小津の旧作を思い出させる題名ですね。
楽しみにしております^^
オカピー
2012/06/04 22:41

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