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zoom RSS 映画評「四つのいのち」

<<   作成日時 : 2012/06/02 10:25   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2010年イタリア=ドイツ=スイス映画 監督ミケランジェロ・フランマルティーノ
ネタバレあり

批評は基本的に他のものとの比較に拠る。初めて物語なるものを読むなり見るなりした人にはどの作品も面白く傑作である。そして経験を踏むうちに基準というものができてくる。僕は映画におけるその基準の多くを経験と共に信頼できる人に学んだ。

しかし、ミケランジェロと言ってもアントニオーニではなく、フランマルティーノなる若手監督が作った本作は初めてとは言わないまでも、どう評価したものか些か難儀する、珍しい種類の作品である。敢えて言えば、ジャン・ルノワールの「河」(1951年)に製作意図が近いと思われる。

南イタリアのカラブリア地方の寒村(寒い村の意味にあらず)、年寄りの牧夫(ジュゼッペ・フーダ)が教会の床の埃を薬にして飲んで山羊を世話している単調な毎日に送るある日、薬を落としてしまいその夜息を引き取る。
 彼の世話になっていた雌山羊が生んだばかりの一匹の子山羊が他の山羊とはぐれて樅(もみ)の木の下で息絶える。
 その樅の木は木を立てて祝う祭の為に切り倒され、用が終ると炭焼き職人(ブルーノ・ティンパノ)に買い取られ木炭になり、人々の役に立って行く。

自然音と人々が遠くで喋っている声は聞こえるが、台詞は一つもない。テンポもゆったりしている。よって睡眠不足の人は眠くなるであろうし、集中できない理由を持っている人は益々集中できずにお話が解らなくなってしまうかもしれないが、万物の生死、特に死に焦点を当てることで自然界で循環している生と死を見つめ、60年前に正にルノワールが「河」においてガンジス川の流れのように悠揚迫らぬテンポによる描写の積み重ねで“生命の営みは川に浮かぶ塵埃に似ながらも尊いものである”と呼びさました感慨に似た印象を覚えさせる。

しかし、あの作品でさえもっと話らしい話はあった。確かにこの間に色々なタイプの作品が生まれ、短編では台詞のない作品は少なくないし、長編でも長い間台詞が全くない作品は相当あるが、1時間を超える作品で台詞が全くないのはサイレント時代でもF・W・ムルナウが作った「最後の人」(1924年)くらいしかすぐには思い出せない。げに珍しき映画なり。

しかし、文字通り静謐な作品であり、“我こそは映画ファン”と自負する方に体調を整えてから是非ご覧になることをお薦めしたい。

環境音楽というのがありますが、観光映画ならぬ環境映画といったところでしょうか?

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四つのいのち
ま〜〜んず、ちっこい話でちっこい映画。 上映時間、88分。 台詞なし。 音楽なし。 場所:イタリアのどこだか。 小さい村。ハイジ在住デルフリ村より小さそうな感じ。^^ ... ...続きを見る
映画と暮らす、日々に暮らす。
2012/06/02 11:00

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。

“信頼できる人”。双葉大先生でございましょう。^^
そういう絶対的にリスペクトできる対象者があると
いうことだけでもうプロフェッサーは幸福者。
私個人といたしましては、おりませんですなぁ。
ですから“基準”も曖昧モコモコでありまして
気分によってよう変わりますです、はい。(笑)
ただ絶対的にイヤなものと、心地よいものとは
ございますね〜これだけは自信もってね。^^

たまにはこういうノホホンとした映画もいいもの。
ヒトより、あの元気いっぱいの動物たちの
自己主張がとってもユーモラスでね〜


vivajiji
URL
2012/06/02 11:20
vivajijiさん、こんにちは。

勿論でございます。
双葉さんは全てのジャンルを公平に観た数少ない人ですからねえ。
大衆映画ファンを自称しながら、ある時代以降のハリウッド映画に満足できず、結局欧州の秀作群に良い採点を出しがちでした。だから、比較的双葉ファンと思われる人にも“欧州映画偏重”と誤解されていましたが、ご本人は大量に良い点を進呈したヴィスコンティもフェリーニも基本的には苦手と仰っているんですよ。
【スクリーン】に双葉師匠の「ぼくの採点表」がまだあった時代からから始まった土屋好生というジャーナリスト上がりの評論家のレビューがあるのですが、この人ジャンル映画が基本的に苦手で、殆ど批評しないのでつまらない。結果的に田舎では余り観られないミニシアター系が多くなって、全くなっちょらんです。「ダークナイト」すら書いていないんですから、お話にならない。

淀川さんは尊敬していましたが、“勘”で観る方でしたので映画の評価の仕方では参考には出来なかった。先生の評価は双葉さんと違って僕には全く予想がつかないんですよ。

双葉師匠に倣って、採点と個人の好悪は多少分けています。勿論絶対的に嫌いなものに凄く良い点を、絶対的に好きなものに極端に悪い点を出すことはありませんけど、同じ点だからと言って同じ程度にお気に入りということではないんです。

vivajijiさんのように自己を持っている人は良いんですが、流行に流されやすい人はこれぞという人を決めると良いと思いますね。やはり双葉さんは最後の映画評論家、今の人は私淑できそうな人はいないなあ。寧ろ優れたブロガーのほうがよほど参考になりましょう。

そう言えば、「ぼくの伯父さん」は台詞はあるんですが、余り意味がないので、全然違いそうで案外本作に近いかもしれませんね。あの映画の犬も面白かったでしょ?(笑)
オカピー
2012/06/02 22:07
シンセサイザーが登場した初期のころは、環境音楽と称される音楽がもてはやされましたね。
いまや当たり前に使われてますが・・・・
富田勲さんの『月の光』や『惑星』を買いましたよ。
その富田さんも今年で80歳だそうで、ねこのひげも歳をとるわけですな(^^ゞ
ねこのひげ
2012/06/03 05:27
ねこのひげさん、こんにちは。

>シンセサイザー
アート・ロック系出身のブライアン・イーノが始めた、若しくは名付け親という位置づけになっているようですね。
彼のアルバム「アナザー・グリーン・ワールド」を持っていますが、まだ完全な環境音楽という感じではないですね。まあ歌詞もないですし、比較的単調な音楽なので、かなりそれっぽいですが。

>富田勲さん
ふーむ、僕は手を出していないなあ(笑)。
たまに映画音楽を担当していたので、聞いたことはありますが。

尾崎紀世彦氏もなくなりましたし、僕も年をとるわけだ(笑)。

今日は甥が通っている母校の文化祭を見学してきました。三十うん年前僕が高校二年生の時に完成した新校舎もまだそれほど古びておらず、しっかりしていました。
二日間で1万数千人の来場者があるようで、なかなか大変な賑わいでございました。
オカピー
2012/06/03 20:38

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