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zoom RSS 映画評「わたしを離さないで」

<<   作成日時 : 2012/06/16 14:37   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2010年イギリス=アメリカ映画 監督マーク・ロマネク
ネタバレあり

秀作「日の名残り」(1993年)の原作者カズオ・イシグロの小説の映画化で、人を馬鹿にするのもいい加減にしろと温厚な僕を怒らせた「アイランド」(2005年)と似たテーマを持つ作品なのだが、クローン人間にアイデンティティはあるかというテーマを打ちだしたように見せかけただけのおためごかし映画「アイランド」とはさすがに違って真摯に命を見つめている。しかも、その背景には教育の怖さが揺曳している。主人公たちは運命に抗えないものと諦観して、限りある生を懸命に生きているのである。

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医学(科学技術)の進歩で平均寿命が100歳を超え暫く経った1970年代から物語は始まる。最初の舞台はシャーロット・ランプリングを校長とする英国の寄宿学校で、中学1年生くらいの少女キャシー(イジー・ミークル=スモール)は同級生のトミー(チャーリー・ロウ)に好意を寄せているが、実は彼に邪慳な態度を取っている少女ルース(エラ・パーネル)も同様。

ここで問題となるのが彼女たちは天命を全うすることがない運命、即ち、将来誰かが病気になった時に備えて生まれた臓器提供者になることを運命づけられたクローン人間若しくはそれに類する生命体ということである。

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ハイティーンになって他の学校出身の少年たちと共同生活をする“コテージ”なる場所に移動したトミー(アンドリュー・ガーフィールド)はルース(キーラ・ナイトリー)と恋人同士になるが、ルースには恋人同士には“提供”が猶予される特典があるという噂に則った打算が優先しており、キャシー(キャリー・マリガン)の思いは複雑である。
 それから十年余り経ち、提供者となって衰弱したルースと再会したキャシーはトミーとの愛を復活させ、猶予されることを望んで判定をしているという学校関係者に会いに行く。

本作はSFと言えばSFだが、未来ではなくパラレル・ワールドの現在(現代)を舞台にしたところに純文学たる所以がある。クローン人間は既にいつでも実現可能な技術であるし、さらに自分の細胞から複製した臓器を使って半永久的な命を得ることが早ければ50年後にも実現する(先日観た「ミスター・ノーバディ」の如く)と言われている現状を考えると、未来SFでは命の重さ、提供者と提供されて寿命を長くする非提供者の命の違いを考えるという素材としては使いにくい。よって、今クローン人間をもって生の意味を考えるには、パラレル・ワールドの現在もしくは現代にせざるを得ないのである。

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「アイランド」の展開では、自分の為には大元である人間の命さえ奪うクローン人間は見た目はともかく、人類に脅威を与える怪物にすぎない。その怪物が彼(ら)を支援する馬鹿な人間とハイタッチして終わるというふざけた「アイランド」において、クローン人間のアイデンティティといった一見高級なテーマがアクションを見せる為の見せかけにすぎないことをちゃんと見ていた観客には解った筈である。
 あの作品が意味を為すにはクローン人間が実際に闊歩する時代が到達するまで待つ必要があるし、仮にその時代が来てもクローン人間ではない一般人には永遠に関係のないお話であり続ける。我々はクローン人間の命を考える前に我々自身の命について考えなければならない。よって、人間が観る映画は彼らのアイデンティティまたは命が我々の生活感情に自然と共鳴するように作られなければならない。

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翻って本作ではどうか。
 限られた命であることを教育により刷り込まれそれにどうしても抗えない人生観の中で、言わばその対極に位置する、生命の礎若しくは原点と言っても良い恋愛感情に登場人物たちがもがく姿は見事にまで切ない。クローン人間にすかして我々の人生の悲しき営みが見えるではないか。そして、それは「日の名残り」の秘めたる愛情を抱えたあの老人のものと通底する諦観であり哀しみである。

2002年に「ストーカー」(アンドレイ・タルコフスキーの同名映画とは無関係)を撮ったアメリカ人のマーク・ロマネク監督が「日の名残り」若しくは他のジェームズ・アイヴォリー監督作品を参照したような英国調の静かなタッチも胸に迫る。

不老不死ではないから人生には喜怒哀楽がある。それに気付かなかった始皇帝は阿呆じゃよ。

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タイトル (本文) ブログ名/日時
家計簿を離さないで
「わたしを離さないで」 「武士の家計簿」  ...続きを見る
Akira's VOICE
2012/06/16 15:04
mini review 11540「わたしを離さないで」★★★★★★★★☆☆
イギリスの文学賞・ブッカー賞受賞作家カズオ・イシグロの小説を基に、傷つきながら恋と友情をはぐくみ、希望や不安に揺れる男女3人の軌跡をたどるラブストーリー。『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、『つぐない』のキーラ・ナイトレイ、『大いなる陰謀』のアンドリュ... ...続きを見る
サーカスな日々
2012/06/16 15:08
わたしを離さないで
公式サイト。原題:Never Let Me Go。カズオ・イシグロ原作、マーク・ロマネク監督、キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド、キーラ・ナイトレイ、シャーロット・ランプリン ... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2012/06/16 16:00
わたしを離さないで
ブッカー賞受賞作家カズオ・イシグロの小説をベースに、過酷な宿命を背負った少年少女たちが、それを受け入れながら限られた命を精一杯行きぬく姿を描いた青春ドラマだ。主演は『17歳の肖像』のキャリー・マリガン、共演に『つぐない』のキーラ・ナイトレイ、『ソーシャル・ネットワーク』のアンドリュー・ガーフィールドと若手実力派3人が揃う。監督はマーク・ロマネク。 ...続きを見る
LOVE Cinemas 調布
2012/06/16 17:32
わたしを離さないで
この命は、誰かのために。 この心は、わたしのために。 原題 NEVER LET ME GO 製作年度 2010年 製作国・地域 イギリス/アメリカ 上映時間 105分 原作 カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』(早川書房刊) 脚本 アレックス・ガーランド 監督 マーク・ロマネク ... ...続きを見る
to Heart
2012/06/16 19:00
『わたしを離さないで』
(英題:NEVER LET ME GO) ...続きを見る
ラムの大通り
2012/06/16 19:29
わたしを離さないで/キャリー・マリガン、アンドリュー・ガーフィールド
『17歳の肖像』でオスカーにノミネートされたキャリー・マリガンと『つぐない』キーラ・ナイトレイ。そして『ソーシャル・ネットワーク』でゴールデン・グローブ賞にノミネートさ ... ...続きを見る
カノンな日々
2012/06/16 21:44
生きる意味〜『わたしを離さないで』
 NEVER LET ME GO ...続きを見る
真紅のthinkingdays
2012/06/17 06:41
わたしを離さないで◇◆Never Let Me Go (2010)
 この命は、誰かのために。この心は、わたしのために。 東宝シネマズ二条にて鑑賞。レディスデイで1000円。春休みでサービスデイということもあって、多くのお客さんでした。若手注目俳優3人の主演ということで、気になっていた本作。どんな話かも事前にチェックし... ...続きを見る
銅版画制作の日々
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わたしを離さないで
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パピ子と一緒にケ・セ・ラ・セラ
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『わたしを離さないで』
1950年代、世界は画期的な医療革命が起こり、やがて人間の寿命は100歳を超えるようになった。映画のはじまりは、主人公キャシーと名乗る女性の静かな語りではじまる。そう、この映画は近未来のこれからの話ではなく、もうひとつのあったかもしれない”過去”の世界の物語... ...続きを見る
千の天使がバスケットボールする
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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。
ちゃんと、文学の香気がありましたね。
先日、死亡した乳幼児の両親承諾によるドナー提供がありましたが、
もうほとんどこの映画のようなことは、技術的には実現していると思いますね。
kimion20002000
URL
2012/06/16 15:13
kimion20002000さん、こんにちは。

SF的だけどSFではない作品でした。
倫理的な問題があるだけでクローン人間は今でも出来るわけですし、数十年後にはこれまた倫理の問題さえなけなれば億万長者は不老不死を享受できることになっていると思います。
しかし、「ミスター・ノーバディ」の結論がほぼそうだったように、それで人間は幸せでいられるか、という今までの哲学とは逆の哲学的テーマが生まれるでしょうね。
オカピー
2012/06/16 22:45
今朝、ジェラール・ドバルデューの『いずれ絶望という名の闇』を地上波でやっていたので観とりました。
フランスノワール。なかなか・・・・・

欧米のSF小説でも、不老不死を描いたものが多いようで、日本人は不死には、あまり、こだわってないですな。
現実に長生きだからかな?
長生きしすぎて人に迷惑をかけるのも・・・・なんだかな〜・・・(~_~;)
ねこのひげ
2012/06/17 06:05
ねこのひげさん、こんにちは。

>『いずれ絶望という名の闇』
リュック・ベッソンが変えてしまう前のフレンチノワールのムードがいっぱい。
ちょっとごちゃごちゃしてまだるっこいのがよくも悪くもフランス流という感じでした。

>不老不死
死なないなら老けない方が良いけど、多分死ぬから人生は面白いのでしょう。100年後金持ちと優秀な才能は生き残るなんてことになっているのかな?

>長生きしすぎて人に迷惑をかける
僕は、それはしなくないし、大した金もないからうちで簡単に死ぬでしょう^^
痛くなければ死ぬのも悪くない。まだやりたいことはあるのでもう十年は生きたいですけど。年金は貰ってからでないと死ねまへんし(笑)。
オカピー
2012/06/18 23:13
オカピーさまへ

>その背景には教育の怖さが揺曳している

まったくですね。教育=洗脳からぬけるのは容易ではありません。
イシグロ・カズオの原作があまりにも素晴らしかったので、映画化は難しいと思っていましたが、映画は映画で透明な悲しみがただよっていて良かったです。
オカピーさまの☆4つの8点はなかなかの高評価だと思います。
樹衣子
URL
2012/06/19 22:36
樹衣子さん、お久しぶりです。

>イシグロ・カズオ
前の「日の名残り」も抜群でしたし、本作もSFテイストながら英国文学らしい香りを漂わせ、秀作と言える出来栄えでした。
映画も観たことだし(笑)、原作も読みたくなりました。

>☆4つ
新作ではこれより多い星はまず出しませんから、絶賛に近いのであります。
オカピー
2012/06/20 22:47

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