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zoom RSS 映画評「武士の家計簿」

<<   作成日時 : 2012/04/03 09:42   >>

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☆☆☆(6点/10点満点中)
2010年日本映画 監督・森田芳光
ネタバレあり

精力的に映画を作っていた森田芳光監督がまさかこんなに早く世を去るとは思いもしなかった(2011年12月逝去)。まだ61歳。
 21世紀に入ってからの彼は世間で色々批判に晒されることが多かったものの、僕個人は「(ハル)」(1996年)以降の作品は評判の悪い「失楽園」「模倣犯」を含め割合レベルが高かったと思っている。一番ダメだったのは「椿三十郎」だが、これは今の役者が黒沢御大の作ったような時代劇には向いていないからで、監督をした彼にちょっと同情したくなるところもあった。

思うに、彼が監督として不調に陥ったのはとんねるずを起用した奇作「そろばんずく」(1986年)からで、「(ハル)」で復調するまで10年掛かるのだが、「そろばんずく」を思い出したのは、歴史学者・磯田道史氏の著作を原作とする本作のテーマが江戸時代加賀藩の御算用者を代々やってきた一家の物語で、算盤(そろばん)が欠かせないお話だからである。

赤門を作ったことだけが唯一の自慢である父(中村雅俊)に引き続き御算用者として藩邸に勤める猪山直之(堺雅人)は非常に細かくかつズルのできない性格で、藩内での不正な米の取引を発見したものの上司に口止めされた後、結局目付による監査により不正が暴かれた為、左遷される寸前に逆にめでたく出世することになる。

並行して剣術一門から嫁・お駒(仲間由紀恵)を貰って長男・成之を設ける様子が描かれていくが、中途半端に出世したのが躓きの元で、息子が四歳になる頃猪山家が借金で火の車になっていることに気付いた直之は見栄など気にせずに家財の殆どを売り捌き、幼い息子に入払帳を付けさせ拾った金を戻させるなどして金銭感覚を養わせる。直之と妻子はそれで僅かに断絶するが、成之は結局父の教育(と母の武士の子女らしい芯の強さ)のおかげで明治時代、海軍の兵站に欠かせない人物になるのである。

或る人がブルジョワジー批判の映画と言っているのには賛同できない。一家の矜持が代々伝わっていく家族のお話であり、もう一つの「夜明け前」であると僕は思う。しかも、この一家は決して衰退などしていない。変わっていく時代を、特に主人公直之は知恵を絞って生き抜いたのである。

そして、実際の資料に基づいて構築されたこのお話は奇妙な程現在の日本国の収支に重なる。作者たちが恐らく意図的にそう作り直したのである。家財を巡る悲喜劇の可笑しさだけでなく、将来の焦げ付きを匂わせて商人相手に無利子の商談に成功する部分など一部現在の手法に通ずる面白さがある。

改めてご冥福をお祈り申し上げます。

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武士の家計簿
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武士の家計簿
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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
コメントする作品がなくって〜いささか寂しゅうございます〜。
それぞれの点数をみて、オカピー様もお疲れ様でございます〜。
邦画はあまり見ないけど、でもまだこの頃の作品は彼以外には面白い作品も多かった。森田監督に関しては「の・ようなもの」「家族ゲーム」以外は観てないなぁ。それから後の作品で彼自身のスピリットみたいなものというか、魅力を感じさせるような作品がなかったからかなぁ。
現在公開中の遺作「僕達急行A列車で行こう」も観る興味も起こらないナァ。
つくづく思うに、作品テーマや監督の演出だけではなくって、その演技をみたいと思わせるオーラのある役者不在も大きいかも。最近マーロン・ブランドの「ラストタンゴ・イン・パリ」を見直して、この作品などはブランド抜きでは成立し得ない作品だと思うし、それにつけても「ゴッドファーザー」もマーロン・ブランド以外ではあそこまでの重厚感のあるドラマになっていただろうかって思うことしきり。観るたびに視線はマーロン・ブランに注がれる。邦画もかつては女優も男優も存在の重さを感じさせる役者が映像にエネルギー漲らせていたなぁとつくづく思う。役者が軽ければ、役者から引き出すものが浅ければ、作品も浅く軽くなるのは必然でしょうかしらねぇ。

シュエット
2012/04/03 10:24
シュエットさん、こんにちは。

森田監督は「それから」と「(ハル)」は一見の価値ありですよ。つまらないと思っても観て損はないと思います。
原作ファンに評判の悪い「黒い家」もなかなか不気味な作品です。

>マーロン・ブランド
「ゴッドファーザー」は彼なしには成立しない映画でしょうねえ。勿論結果論で、他の俳優でも成功したかもしれませんが、一度観てしまっては代替えはありえませんね。
「椿三十郎」も三船敏郎と織田裕二君では比較にならない。

今日の東京新聞に、映画館のデジタル化により“アート系映画”が益々見られなくなるだろう、という予測が載っていましたよ。
また古い映画を見るチャンスが減るとも。
最悪の未来予想図ですよ・・・
オカピー
2012/04/03 20:27
森田さんは、ここのところ顔色悪いな〜どこか悪いんじゃない?と思っていたので、案の定でしたけど、早いですね。
色々、無理がたたったんでしょうね。
これは劇場で観ました。『RED/レッド』を観たとき、次の上映がこれだったので・・・・
『武士の家計簿』も読んでいたので・・・
なかなか良かったですけど、観客が3人というのはさびしかった。

『椿三十郎』は、俳優が全部大根に見えたのにはまいりました。
ベテランまでが、下手に見えるのはどういうことか?でした。
藤田誠さんなんかなれているはずなんですけどね。
ねこのひげ
2012/04/04 05:37
ねこのひげさん、こんにちは。

>顔色悪いな〜
そうですか。僕は全然知らなかったです。
ちょっと作りすぎだったのかもしれませんねえ。

>観客が3人
地方の映画館の平日では日常ですね^^;

>『椿三十郎』・・・ベテラン
そういうことはままあるんですよね。
総合すれば監督のせいなのでしょうが、不思議です。
中村玉緒は普段が天然なので一見適役でしたが、オリジナルの入江たか子の超然ぶりに程遠い出来したね。
オカピー
2012/04/04 21:31

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