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zoom RSS 映画評「白いリボン」

<<   作成日時 : 2011/12/18 16:38   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2009年ドイツ=オーストリア=イタリア=フランス映画 監督ミヒャエル・ハネケ
ネタバレあり

僕にとって後味の悪い映画No.1と言っても良い「ファニーゲームU.S.A.」を作ったミヒャエル・ハネケの作品だから覚悟して見ないといけないが、僕は今回監督の名前も知らずに観たので、こんな厳しい北欧的なモノクロ映像を観るのは久しぶりだなあと内容そっちのけで興奮していたら、最後に監督ミヒャエル・ハネケと出た。やはり曲者。

かつて教師をしていたある老人が自分が経験した半世紀ほど前を回想する形で進行するが、この時点では舞台が今世紀初めのドイツ荘園地帯の或る村ということくらいしか解らない。色々とぼかすハネケ流である。

まず村の医師(ライナー・ボック)が自転車に乗っている時仕掛けられた鉄線に引っ掛かって転倒、大怪我をする。続いて小作農の妻が墜落死する。その息子が怒ってキャベツ畑を荒らすが、一家は沈黙を守る。さらに男爵(ウルリッヒ・トゥクール)家の納屋が燃え、厳格なプロテスタント牧師(ブルクハルト・クラウスナー)が躾と称して子供たちを鞭打つ。
 牧師の愛鳥は恨みを抱いた娘により殺され、医師は手伝っていた助産婦との肉体関係を切るが、彼女の子供が誰かに重傷を負わされた後何故か二人とも別々に姿を消してしまう。その直後サラエボ事件が勃発、第一次大戦が始まる。

まだ30くらいだった語り手の教師(クリスチャン・フリーデル)が不穏な空気の漂う村の中で村人を客観的に冷静な立場で観ている狂言回しとして行動するのだが、時代が1913年と判明することで主題が明確化する。
 領主が小作農から搾取し、牧師が子供たちを躾の名の下に子供たちを抑圧し、医師が女性を辱める。一見厳格でまともに見える人物たちが実は暴力性や欺瞞に溢れているのに、弱い大人の村民たちはそれに対して大きな反応を見せず、子供たちはキャベツを荒らしたり小鳥を殺したりする悪意を見せるようになる。この大人の沈黙と抑圧された子供たちの静かな反抗にファシズムの胚胎を感じさせる、という仕組みである。

タイトルになっている白いリボンは牧師によれば無垢の象徴で、ひどい場合はバンドで縛り付けるわけだが、子供(弱者)たちは大人(強者)たちからの抑圧から解放される手法として悪意の実行を覚えて、かくして一つのものが対象化される時にファシズムが生れるというのである。この村の一見静かな不気味さはファシズム(ナチズム)胚胎時の静けさというのである。

教師が仕立屋になり、恋人の名前がエヴァということで教師をヒトラーのアレゴリーという風に捉えることもできるが、ヒトラーの出生にも謎が多いので、医師と助産婦との間に生れたと噂のある障害児なども考え合わせると、この村全体がヒトラーのアレゴリーなのではないかという気もしてくる。

この厳粛な静かさにはぞっとさせられるが、それを醸成したモノクロ映像の美しさにもっと圧倒させられる。比較的最近の作家でこんなに構図が美しいのはテオ・アンゲロプロスくらいしかいない。

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『白いリボン』
今年最も観たかった映画が、2009年カンヌ国際映画祭でパルムドール大賞に輝いたミヒャエル・ハネケ監督の最新作『白いリボン』。受賞の報道から待ち続けること1年あまり。そして、先日、ようやく鑑賞することができた私の個人的な感想は、この映画は今年度最高の映画だっ... ...続きを見る
千の天使がバスケットボールする
2011/12/18 19:52
白いリボン/クリスティアン・フリーデル
ドイツの鬼才、ミヒャエル・ハネケ監督によるクライム・ミステリー。2009年カンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞作品です。ぜひ観たいなとかねがね思ってはいたのですが、なかなかそ ... ...続きを見る
カノンな日々
2011/12/18 21:11
白いリボン
『ピアニスト』『隠された記憶』のミヒャエル・ハネケ監督最新作。昨年のカンヌ国際映画祭のパルム・ドール授賞作品だ。第一次世界大戦直前の北部ドイツの村を舞台に次々と起こる不可解な事件と、そこに暮らす人々の心の闇を描き出す。出演は『善き人のためのソナタ』のウルリッヒ・トゥクール、『ベルリン、僕らの革命』のブルクハルト・クラウスナーら。 ...続きを見る
LOVE Cinemas 調布
2011/12/19 00:19
白いリボン(2009)☆★DAS WEISSE BAND
美しい村 静かな暮らし 聴こえてくる魔物の足音 京都シネマにて鑑賞。公開2日目でしかも日曜日、その上第1回目の上映ということもあってか、多くのお客さんでロビーは賑わっていました。1時間前に行ったのですが、すでに64番目。 ハネケ監督作品がカンヌでパル... ...続きを見る
銅版画制作の日々
2011/12/19 13:29
「白いリボン」
THE WHITE RIBBON 2009年/ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア/144分 at:テアトル梅田監督: ミヒャエル・ハネケ 脚本: ミヒャエル・ハネケ 撮影: クリスティアン・ベルガー ナレーション: エルンスト・ヤコビ 出産しコブ付となった娘のお世話で、仕事帰りに映画だの友人とお茶だのと、お気楽ご気楽の日々から一転、帰宅後は母乳がたくさん出るようにと娘の三度の食事作りに、その合間を縫ってBABの沐浴と、育児に明け暮れる毎日。録画作品もゆっくりのんびりお家シネ... ...続きを見る
寄り道カフェ
2011/12/21 14:02
11-07「白いリボン」(ドイツ・オーストリア・フランス・イタリア)
子供はいつでも難しい年頃   第一次世界大戦前夜、北ドイツの小さな田舎町。地主である男爵が支配するこの町で、ある日、帰宅途中のドクターが落馬して大けがを負う。道に張られていた細い針金が原因だった。  その次には、男爵の製材所で女性の事故死が発生する。さらに、男爵のキャベツ畑が荒らされ、挙げ句に男爵の息子が行方不明になる。  犯人がわからぬまま、敬虔な村人たちの間に不安と不信が拡がり、次第に村は重苦しく張り詰めた空気に覆われていく。(「allcinema」より) ...続きを見る
CINECHANが観た映画について
2011/12/23 17:17

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
 こんばんは!
この作品には圧倒されました。
新作映画で久々のモノクロ映像だったので、嬉しくなりました。

個人的には燃え盛る炎と身体を切るような冷たさが分かる吹雪の映像が印象的でした。子どもにとんでもないことをした犯人は誰だったんでしょうね?

あのへんの感覚はハネケらしいですね。『ファニーゲーム』も見ましたが、あれもキツかった(笑)

ではまた!
用心棒
2011/12/18 20:10
用心棒さん、こんばんは。

この映画のモノクロ映像の厳しさは凄かったでしょう。内容よりそちらのほうが印象に残ったなあ。
モノクロ時代のベルイマンとか、そんな感じで大いに興奮しました。

>『ファニーゲーム』
リメイクの方を観ましたが、あれは確かにしんどかった。映画としては力量を示したと思いますが、だからと言って二回見る作品ではないですね。
オカピー
2011/12/18 21:45
>ベルイマン
やっぱりそう感じられましたか(笑)

ぼくも見ていて内容よりも映像の荘厳な美しさに惹かれた作品でした。

ハネケには特異なセンスがあるのは理解しますので、一般受けする作品も三本に一本くらいは撮って欲しいと思っています。

>二回

無理ですね(笑)記事に書くとしたらもう1回見なきゃいけませんが、もっと楽しく時間を過ごしたい(笑)

ではまた!
用心棒
2011/12/18 21:55
用心棒さん、こんばんは。

僕がモノクロの凄さを最初に強烈に感じさせたのはベルイマンです。その時に感じたモノクロの美しさを彷彿とするのは並大抵のことではありませんよ。
感激したなあ。
本作は内容的には一般にも受け入れられる範囲でしょうね。
オカピー
2011/12/19 21:08
この間、レビュー書きながら5点前後続きで半分腐りかけていたオカピーさんもこんな曲者のモノクロ映画で、若干気持ち持ち直したのでは?(笑)
この抑圧はトリアー監督の「ドッグヴィル」にも通じるなって見ながら思ったのが記憶に残っています。
>この厳粛な静かさにはぞっとさせられるが、それを醸成したモノクロ映像の美しさにもっと圧倒させられる。
ぞっとするような空気をもった静かさは他の作品でも感じられる空気。こういう描き方はハネケ監督上手いですネェ。
私はWOWOWのトラウマ映画館4本で、やっぱり60年〜70年代っていい映画とってたナァって改めて思い、トラウマ度が徐々にアップしていったWOWOW特集で気分よくなっているこの頃です。
オカピーさんも今年のお疲れでお風邪など召しませんようにご自愛くださいね。
シュエット
2011/12/21 14:13
シュエットさん、こんにちは。

新作では本当に良い作品に遭遇できなくてくさっていますが、新作を観続けるのももうカウントダウンという感じです。
どの国の映画もTV視聴者に標準を合せすぎて、程度が低すぎます。そうでない場合は作者の独りよがりが目立つ、という二極化が進んで、お話になりませんね。僕は数年前に10年もしたら映画は終るだろうとある人に言いましたが、残念ながら“映画”は終りかけています。

>トラウマ映画館
ソウル・バス作品以外は観たことがあるのですが、「不意打ち」と「裸のジャングル」はまた観ました。「アポカリプト」は「裸のジャングル」だと指摘したのは町山氏だけではありませんぞ(笑)。
「質屋」は勿論必見の傑作。年内に見なくちゃ。
オカピー
2011/12/21 17:57

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