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zoom RSS 映画評「終着駅 トルストイ最後の旅」

<<   作成日時 : 2011/10/05 09:28   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2009年ドイツ=ロシア=イギリス映画 監督マイケル・ホフマン
ネタバレあり

ロシア・ソ連にはトルストイという作家が三人いるが、本作が扱っているのは勿論一番有名なレフ・トルストイである。ロシア語を専攻していたからトルストイの小説・戯曲は一通り読んではいるものの、思想関係は全く読んでいない。そもそも僕が好きなのはチェーホフ、プーシキン、ツルゲーネフ辺りのほうだからトルストイへの関心は余り高くなかったのだ。従って、トルストイが駅で死んだのは知っていたが、もっと寂しく死んでいったのかと思っていたら大分違いましたね。

ソクラテスやモーツァルトの奥方などと並んで三大悪妻と言われるトルストイの妻ソフィア(ヘレン・ミレン)が、私有財産を否定して著作権を国民に譲ろうとしている夫(クリストファー・プラマー)やその取り巻きであるトルストイ主義者の一番弟子チェルトコフ(ポール・ジアマティ)らと対立する。帝政ロシア末期の1910年、妻との確執に堪え切れなくなったトルストイは娘サーシャ(アン=マリー・ダフ)や新入りの秘書ワレンチン(ジェームズ・マカヴォイ)らと共に家を出て列車上の人となるが、アスターポヴォという駅で病床に付く。

僕にはトルストイ=博愛主義者というイメージが強いが、本作は個人・家族の幸福を優先する妻との関係を明らかにする為に社会主義に近い理想主義者ぶりが前面に押し出され、研究者以外には余り知られていない、帝国政府の軟らかい監視下にあるトルストイ主義者のコミュニティの存在が大々的に描かれているのが大変興味深い。

その一方、晩年のトルストイとソフィアが愛し合っていなかったのかと言えばそんなことはなく、妻や夫の性格を互いに理解し認めつつ著作権を巡る一点においてどうしても合意できないものがあったということなのだろう。互いへの思いが浮かび上がるのがややこしい押し問答の末に迎える駅での再会場面で、偉人云々とは関係なく、長く付き合った夫婦の以心伝心の会話(トルストイは意識朦朧で会話になっていない)がぐっと胸に迫る。

ワレンチンは実質的な主演ながらドラマの性格上は狂言回しで、トルストイとソフィア、チェルトコフ、トルストイ主義者のマーシャ(ケリー・コンドン)といった老若男女の間をうろうろすることで、その思想をよく反映する人物像になって面白い。

配役陣ではヘレン・ミレンが好演。英国女性だけでなく、ロシア女性も十分行けるようです。

「素晴らしき日」「卒業の朝」同様マイケル・ホフマンの演出はクラシックな映画的感覚と呼吸を生かして好調。

偉人あっての悪妻。客観的に観たらなかなか立派な奥様ですよ。

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
WOWOWで放映されていたんですね。
オーソドックスな作りで
とても観やすかったですね。
ほんとのところはわかりませんが
強い言い争いもありましたが
13人もの子を成していろいろな意味でも
やはり結果的にみて夫を支えてきた妻は
同性としても神々しく見えましたが。
気丈夫さに加え、身体もきっと
お丈夫だったんですね。

ところで、WOWOWの新しい番組表ですが
以前から比べると見づらいと感じませんか?
vivajiji
URL
2011/10/05 15:27
vivajijiさん、こんばんは。

トルストイが偉人と扱われるから悪妻と言われるのであって、彼に大きな業績もなかったら寧ろ“糟糠の妻”ですよ。尤も、“糟糠の妻”とは後で旦那が偉人になって言われることですけど^^
彼女を“悪妻”にしたのは共産主義者にちがいありません^^;

>WOWOWの新しい番組表
そうですねえ。
しかし、映画専門番組ができたのは調べやすくて有難いと思っております。放送は全部ハイビジョンだし。
しかし、右上に変な文字がずっと付いているのが邪魔くさいですなあ。
オカピー
2011/10/05 21:36
ねこのひげも小説は読んでますが、思想のほうはまったく知りませんですね。
ロシア文学はロシア大地と一緒でその壮大さが好きです。

ヘレン・ミレンはすごい女優ですね。『レッド/RED』のような軽い役から重い役までこなしますね。
ねこのひげ
2011/10/06 04:39
ねこのひげさん、こんにちは。

大体大陸の方は大長編になる傾向があり、トルストイやドストエフスキーはその最たるものですが、それでもチェーホフみたいな短編の名手もいらして、なかなか幅が広いですねえ。
日本は自然主義の影響からか短編が多く、長編と言っても海外の作品と比較すれば中編程度のものが大半。やはり島国らしいですね。

>ヘレン・ミレン
名女優ですね。
確かシェークスピア女優ですが、あのエロ大作「カリギュラ」で日本に初めて紹介されたような記憶がありますが。
オカピー
2011/10/06 16:11

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