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zoom RSS 映画評「セントアンナの奇跡」

<<   作成日時 : 2010/09/30 18:22   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2008年アメリカ映画 監督スパイク・リー
ネタバレあり

社会派と言われるスパイク・リーも数作前から平明な娯楽的傾向を強めていて、本作もそれを継続して馴染みやすい作風になっている。

1983年退職を間際にした黒人の郵便局員ラズ・アロンゾが突然イタリア系白人男性を射殺するという事件が発生。勾留中の彼が記者に質問され40年近く前従軍中の経験を回想するという形式で、謎が解明されていく。

1944年イタリアはトスカーナ地方、ドイツ軍との戦いに苦戦するアメリカ軍の中で当て馬的に使われている黒人部隊が、交戦中に重傷を負った少年(マッテオ・シャボルディ)を治療して貰おうとある家を訪れ、その村に足止めを食らううちに村民たちと親しくなっていく。
 が、パルチザンがドイツ人捕虜を連れてきたことからかりそめの牧歌的ムードは吹き飛ぶ。まずここで少年が一人で行動していた理由がはっきりする。パルチザン・メンバーの一人の裏切りで近くのサンタンナ(セントアンナ)という村が皆殺しに遭い、少年はその生き残りだったのだ。少年を救ったドイツ人兵士がくだんの捕虜で、裏切者は口を塞ぐ為にドイツ兵とリーダーを殺して逃亡する。さらに脱走兵を追ってきたドイツ軍が黒人部隊のいる村を攻撃、結局アロンゾを除いて村民と黒人部隊は全滅してしまう。
 しかし、ドイツ軍に破壊された彫像の頭部を大事に抱える信心深いオマー・ベンスン・ミラーを信頼しきっていた少年は先に殺された親友の霊に導かれてその修羅場を生き抜く。

序盤のうちはミステリー的に進行するので大いに興味をそそられる。163分と長い映画で比較的平和な場面が続く中盤はこちらの緊張感も途絶えがちになるが、サンタンナの悲劇がパルチザンの口から語られる辺りから怒涛の展開になり盛り返し、全体の満足度は高い。

しかし、硬派のリーさんもハリウッドの大袈裟病に罹患したようで、幕切れは大仰に過ぎる。ちょっと勘を働かせれば、序盤新聞を読んで慌てて席を立ったイタリア男性が少年その名もアンジェロ(天使)が大人になった姿ということは早々に解るので、幕切れをもっとさりげなく進めた方が却って感銘を増したのではないかと思う。序盤に殺された男の正体は言うまでもないでしょう。

いずれにしても、全編を通し一貫して流れるのは(人種・民族)差別への意識とそれを凌駕する信仰である。我々日本人には信仰より信頼や友情のほうが普遍性があって有難いものの、奇跡というからには信仰の方がふさわしい。本当に純粋なものであれば(少なくともキリスト教圏であれば)信仰は民族や人種を飛び越えて共有できるものであるはずで、本作にはそうした思いが込められているように感じられる。勿論友情と信頼も底流にあり、胸を熱くするのは寧ろそちらのほうだ。

本作で描かれるトスカーナ地方は、残虐な場面が連続するにも拘らず、(黒人兵にとって)住民が差別そのものを知らないという意味で桃源郷のようである。アメリカの白人やドイツ人は同じ穴のムジナに過ぎず、住民とは対照的な存在として扱われる。黒人にとって差別との戦いこそ戦争なのだ。その一方で、ドイツ軍にも差別や残虐を嫌い自由を愛する者がいることをきちんと描写しバランスを取っているところに現在的な視点がある。

現在の社会を活写してきたリーにとって初挑戦となる戦場シーンはリアリズム基調でなかなか見応えあり。手持ちカメラを使っても流行の“揺れ”に拘らない辺りはさすが。

40年前にちょっと会っただけの人を瞬時で判断するとは・・・憎悪は人を超人にもするのだ。

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セントアンナの奇跡
公式サイト。スパイク・リー監督、デレク・ルーク、マイケル・イーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラー、マッテオ・シャボルディ、セルジオ・アルベッリ。1983年のニューヨークの郵便局で20セント切手を購入しようとした男が局員にいきなり銃殺される。容疑者の.... ...続きを見る
佐藤秀の徒然幻視録
2010/09/30 18:26
セントアンナの奇跡
女神は<奇跡>を、 人に託した 原題 MIRACLE AT ST. ANNA 製作年度 2008年 上映時間 163分 映倫 R-15 原作・... ...続きを見る
to Heart
2010/09/30 19:50
セントアンナの奇跡/デレク・ルーク
スパイク・リー監督の作品には一時期ハマってたこともあって好きな監督なんですが、最初に予告編を目にした時はスパイク・リーの作品とは知らなくて「こんなの作ってたんだァ」と思ったんですけど、その後にこの作品で描いているのが第二次世界大戦下での黒人兵士で組織され.... ...続きを見る
カノンな日々
2010/09/30 21:27
セントアンナの奇跡◇◆MIRACLE AT ST.ANNA
女神は《奇跡》を託した! 長かった!何と2時間43分。予告編なしで本編上映でした。「インランド・エンパイア」の3時間には負けるけれどね・・・・。 第二次世界大戦時に実在した黒人だけの部隊、第92歩兵師団“バッファロー・ソルジャー”。彼らが送り込まれた最前線、イタリアのトスカーナには封印された残酷な史実があった。 ナチスドイツは、イタリア市民までもZANGYAKUな行為を行っていたんだね。それにしても酷い話だ!このセントアンナだが、正確な街の名前はサンタンナ・ディ・スタッツェーマという場所だ... ...続きを見る
銅版画制作の日々
2010/09/30 23:18
セントアンナの奇跡
スパイク・リー監督最新作。社会派で常に人種差別問題を提起してきた監督らしく、今回もその信念が息づいている戦争ドラマです。メインの出演者は「きみの帰る場所/アントワン・フィッシャー」デレク・ルーク、『7つの贈り物』のマイケル・イーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラーの4人。2時間43分の大長編です。 ...続きを見る
LOVE Cinemas 調布
2010/09/30 23:20
mini review 10438「セントアンナの奇跡」★★★★★★★☆☆☆
第二次世界大戦中のイタリアで実際に起きた虐殺事件を基に、兵士の葛藤(かっとう)と心の交流をサスペンスタッチでつづる戦争ドラマ。『マルコムX』のスパイク・リー監督が同名の小説を映画化し、リアルな戦闘シーンだけではなく、人種を超えた人間の尊厳と希望を見事に描き切った。主要な4人の若き黒人兵を、『大いなる陰謀』のデレク・ルークや『7つの贈り物』のマイケル・イーリーらが好演。戦争の無意味さや、人間の温もりがダイレクトに伝わってくる。[もっと詳しく] ...続きを見る
サーカスな日々
2010/10/01 02:27
セントアンナの奇跡
Miracle at St. Anna (2008年) 監督:スパイク・リー 出演:デレク・ルーク、マイケル・アーリー、ラズ・アロンソ、オマー・ベンソン・ミラー 第二次世界大戦末期、イタリアの小さな村で、部隊からはぐれた4人の黒人兵を描く戦争映画。 アメリカでの公開前、S・リー監督は、「クリント・イーストウッドの硫黄島2部作は黒人兵が登場しないからインチキ映画だ」と公言したと聞き、そんな的外れな事を言うからにはどんな立派な作品を作り上げたのかと、興味本意で観てみたら、焦点の定まらない無駄に長... ...続きを見る
Movies 1-800
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09-246「セントアンナの奇跡」(アメリカ・イタリア)
眠る男≠ヘ誰なんだ?  1983年のニューヨーク。ある日、郵便局に現われた男性客を定年間近の郵便局員が射殺する事件が発生。そして犯人の男ヘクターへ殺人の動機や被害者との関係を追及する中、彼の部屋では歴史的に重要なイタリアの彫像が発見される。  そんな不可解な事件の謎を解く鍵は、1944年のイタリアまで遡るのだった――。  第二次大戦下、アメリカ軍の黒人だけで組織された部隊“バッファロー・ソルジャー”は、イタリアの最前線でナチスと戦っていた。そのさなか、無線兵でイタリア語が堪能なヘク... ...続きを見る
CINECHANが観た映画について
2010/10/11 01:34

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
むかし、子供のころ見た『コンバット』でも、ドイツ兵がアメリカ兵と同じ人間として描かれていて、すばらしかったですね、
たとえば、塹壕の中で子供の写真を出してみているドイツ兵のちかくにアメリカ兵が現れ、戦闘になり、殺されたドイツ兵のそばにその写真が転がっているエピソードなどなど・・・
ねこのひげ
2010/09/30 19:37
ねこのひげさん、こんばんは。

>『コンバット』
何だかそのエピソードは僕のお気に入り「西部戦線異状なし」に似ていますね。
あちらは殺されるのがフランス兵で、残された写真を見てショックを受けるのがドイツ人のパウルなんですけど。
オカピー
2010/10/01 01:56
こんにちは。
受付の机の引き出しに拳銃を隠し持っていたのも、いつかこんな日が来る、あの男と再会すると、どこかで確信していたのかもしれませんね。復讐心というよりは、やはり「神の奇蹟」への信仰なのでしょうね。
kimion20002000
URL
2010/10/01 02:30
kimion20002000さん、こんばんは。

仰るように解釈若しくは理解するのがこの映画の主題を最も適切に表現しているような気がします。
言い得て妙ですね。
オカピー
2010/10/02 00:27

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