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zoom RSS 映画評「その土曜日、7時58分」

<<   作成日時 : 2010/03/05 15:49   >>

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☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督シドニー・ルメット
ネタバレあり

シドニー・ルメットの最新作は久しぶりに見応えがある秀作である。

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横領した金に充当する為の金策に行き詰った会計士フィリップ・シーモア・ホフマンが離婚した妻からの養育費の催促に困惑している弟イーサン・ホークに両親の経営する宝石店で覆面強盗するように半強制する。曰く、「店には70歳の老女しかいないから安心、銃は使うなよ」。
 意気地無しの弟は酒場の男を味方に引き入れるが、両親の店という事情もあり躊躇するうちに男が実行犯を買って出て、店番の女性に発砲、老女も撃ち返す。かくして男は死亡し、老女は病院に運ばれるが、撃たれた老婦人が自分の母親と知って兄弟は呆然とする。

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整理すればこういうお話だが、事件の背景、事件の表面的経緯、その裏面にあった真実という三つの要素が位相をずらしながら展開するので、お話の方向性がはっきりするまでに暫く時間が掛かる。そのじらし具合に面白さがある一方で、序盤のうちは巻き戻し型サスペンスの様相に「ルメットよお前もか」と言いたくなるところがある。巻き戻し型には同じ場面が繰り返されるという問題が付きもので、あくまで一般的印象だが、これが時に僕をうんざりさせるのである。

しかし、眼目がサスペンスにないことが判ると僕の印象もがらりと変わる。この一家の歪な家族関係、特に父親アルバート・フィニーと息子たちとの幼少期から続く愛憎関係が後半になるに連れ浮き彫りにされ、終盤怒涛のように大崩壊する模様に近頃稀なる凄味があるのである。

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演出的には、ルメットのワン・カットごとのしっかりした仕事ぶりに若手とはさすがに違うなと感心させられるところが多い。80年代以降に出て来た監督が映画文法(カット割りのことと思えば当たらずとも遠からず)を無視して中味のない格好良さやスタイルばかり追っているのとは実に対照的と言うべし。

配役陣では親子を演じた三人が好調だが、それ以上にホフマンの妻に扮するマリサ・トメイの疲れた感じに注目しておきたい。

人生の落伍者は犯罪でもヘマをする、ということ。

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soramove
2010/04/13 00:30

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コメント(12件)

内 容 ニックネーム/日時
シドニー・ルメット監督の作品は結構好きなのですが、この作品はまだ観ていません・・・・。楽しみです。
それにしても、息の長い監督さんですね。子役俳優だったということも意外です。
ドラゴン
2010/03/05 18:48
私としては本作
2008年のベストワンにあげております。

ルメット84歳。
やはりこういう題材がお得意なんでしょう。。
まったく衰えを感じさせませんね〜(^ ^)
プロフェッサー、ご指摘のように
一場面、一場面がなにかが全然違うんですよ。
カットごとのパワフル感がまるで凄いので
時間ずらしの挿入もさほどペナルティには
結びつかなかったと私は思いましたが。

ベルイマン作品、BS放映されるとのことで
とても嬉しい上にベルイマン89歳だったことを
思い出すとルメットさんもご長命。
達人の脳内はまさにボケてなんかいられないん
でしょうね〜〜〜
実に頼もしい。
物語もラストも救いようがありませんでしたが
映画ファンとして素晴らしいご馳走をいただいた
ような気がした傑作と感じました。
vivajiji
URL
2010/03/05 19:33
ドラゴンさん、こんばんは。

>ルメット
この作品で映画デビューから丁度50年くらいですよね。
TV時代を含めれば大変なことですね。
日本にも新藤兼人という60年くらい映画を作っている方もいらっしゃいますが。

そうそう、先日ドラゴンさんのtwitterを勝手に拝見させて戴き、その中に「キネマ旬報」の双葉師匠追悼特集があると書かれていたので、早速購入致しました。
小林信彦氏の追悼文も良かったですが、師匠本人が1960年代に書かれた評論文「映画の危機を深める甘い批評」が素晴らしく、感激致しました。
これだけでも890円を出す価値は十分あると思いますが、ドラゴンさんは如何でしたか?
オカピー
2010/03/06 01:00
vivajijiさん、TB&コメント有難うございました。

やはり映画は基本からですよ。
若い人が色々と誤魔化すようなことをやっても見る人が見れば全然ダメなわけでして、地味でも昔から映画を撮っている人はカットごとの情報量が違いますね。

>ペナルティ
書き方が悪かったのですが、一般論としてダメだから
そういう思いが終盤の方まで続くのではあるまいかという
杞憂を抱いたということです。
結果的には視点変えは上手く行きましたね。

ただこの手法はもうすたれ始めているようで、
2007年だから作れたのかもしれないという思いもあります。

>物語もラストも救いようがありませんでした
我々は当事者でなくて良かったと思えるだけでも良いです。^^
厳しい人生の断面を見るのも、反語的な意味で【映画の見せる夢】ですよね。

>ベルイマン
そう言えば、偶然にも(?)本作を見ながらベルイマンも思い出していました、「これが女性だったらベルイマンかなあ」なんて。
オカピー
2010/03/06 01:17
双葉さんの大昔の文章は中々読めないので、非常に貴重なものですね。双葉さんの映画に対する厳しい姿勢がよく分かる文章でした。ヒッチコックとクルーゾーについての文章も、やはり双葉さんらしい解りやすい解説で、読むことができて良かったです。

あとは、大林監督の追悼寄稿も嬉しかったです。僕も大林作品は大好きなので。
ドラゴン
2010/03/06 11:44
ドラゴンさん、こんばんは。

>ヒッチコックとクルーゾー
勿体なくて今日まで読まずにいました。(笑)
ドラゴンさんのご案内により遂に今日読みましたが、
明解で、何よりバランスが取れていますよね。

>大林監督
おーっ、僕も好きなんですよ。^^
最近酷評されがちですが、全然変わっていませんね。

類は友を呼ぶというか、ご贔屓が好きな人は潜在的に好きなことが多いというのは経験からも感じます。

例えば、

双葉さんとトリュフォーの映画評スタイルはかなり違います。
しかし、師匠はヌーヴェルヴァーグの中でトリュフォーを断トツにご贔屓にされていました。
二人の共通点は何か?
共にバルザック好き(双葉さんに関しては偶然にも昨日「ぼくの特急二十世紀」という自伝の中で知りました。トリュフォーに関しては作品からの僕の推測ですが、頻繁に引用されるので間違いないです)。

で、僕もトリュフォーがお気に入りで、文学者ではやはりバルザックが大好きなんです。

何だか面白いでしょ?
オカピー
2010/03/07 00:38
いやぁ、これはさすが!って思ったわ。これも昨年夏に公開で家のリフォームで劇場鑑賞できなかったのが残念でした。
時間逆戻しは、やっぱりP様としてはどうもダメみたいですね。
で、私も普通の時間軸に沿って3人の事情を描いてみたらどんなだろうって考えたんだけど、3人は親子であり兄弟であるんだけど、それぞれの事って何も知らないし、わかってないんですよね。それが土曜日の7時58分に起きた事件で、露呈する。一つの家庭の崩壊劇を通して現代社会そのものの空洞というか悲劇を描くために、あえてルメットはこの手法で三人を描こうとしたんではないかしらって思うんだ。
>人生の落伍者は犯罪でもヘマをする、ということ。
今回のこのオチはブーだよ! P様。
3人とも、物質社会の中で、それぞれが落とし穴にはまってしまったんだよ。そう思うな。
シュエット
2010/03/08 10:14
シュエットさん、こんばんは。

客観的に巻き戻し型においては同じの場面の繰り返しがくどいという事実はいかんともしがたく、黒澤明を世界のクロサワにした「羅生門」なんかも最後には(主観的に)嫌になってきますが、要はハイ・リスク・ハイ・リターンな手法なわけです。

本作も結果的に物凄いハイ・リターンだったので僕も良い映画と認めました。
映画は「終わりよければすべて良し」とも言えないので、手法に付き物の欠点くらいは指摘しておいた方が良いかな、と。

>今回のこのオチはブーだよ! P様。
あははは。
いや、太字の部分はいつも洒落だから、真面目に取らないで下さいよ。^^
要は、こんなやりきれない映画だから、笑い飛ばしてバランスを取ろうとしたつもり。
オカピー
2010/03/08 23:53
TB有難うございました。
うまくいくはずだった簡単な計画が
ひとつのほころびにより家族の裏側の
表情まで写しだしていく展開には
驚きでした。

今度、訪れた際には、
【評価ポイント】〜と
ブログの記事の最後に、☆5つがあり
クリックすることで5段階評価ができます。
もし、見た映画があったらぽちっとお願いします!!
シムウナ
URL
2010/03/23 03:50
シムウナさん、こんばんは。

仰る通りの内容でしたね。
犯罪に与したらいけないという教訓でしょうか。
オカピー
2010/03/24 01:00
今朝 アニキ役のフィリップが亡くなったニュースをみました。ご冥福をおいのりします。

作品ですが まあ 失敗に失敗を重ねまくったドミノ倒しな破綻を描いてましたね。
アニキのアンディは社会的地位は確立したものの 会社の金を使い込んでいたし 父親への愛情の渇望や憎しみがあった。弟は妻と離婚して アニキの妻とできてたし・・・心の闇がしっかり伏線になってました。

で・・・お粗末な計画は お粗末な結果しか待ってなかった。

弟のハンクは逃げた後が描かれてませんでしたが まあ捕まったでしょうね。
別れた妻や娘からは 愛想つかされて絶縁されたと見ています。 
zebra
2014/02/03 09:05
zebraさん、こんにちは。

フィリップ・シーモア・ホフマンが亡くなった。
それも例によって麻薬とか。
びっくりしましたなあ。
映画を観る限り、アメリカ人はたばこや酒を飲むを感覚で麻薬をしているようです。

作り方としては完全な好きなタイプではありませんが、最終的にはなかなか良くできた作品とは思いましたね。

細かい内容は4年前の鑑賞ですので、僕が触れない方が良いでしょう(笑)。
オカピー
2014/02/03 21:21

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