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zoom RSS 映画評「イントゥ・ザ・ワイルド」

<<   作成日時 : 2009/09/12 15:20   >>

ナイス ブログ気持玉 1 / トラックバック 13 / コメント 6

☆☆☆☆(8点/10点満点中)
2007年アメリカ映画 監督ショーン・ペン
ネタバレあり

ジョン・クラカワーのノンフィクションを映像化したショーン・ペン長編映画第4作。

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1990年、大学を優秀な成績で卒業したクリス・マッカンドレス(エミール・ハーシュ)は、エリートである両親の不仲や妹(ジェナ・マローン)と自分が私生児であることに反発、好きな自然志向の作家ジャック・ロンドン「荒野の呼び声」やヘンリー・ソロー「森の生活」に影響されて物質文明的な生活から離れる為にアラスカを目指す。
 その間に、大農場主(ヴィンス・ヴォーン)、ヒッピーのカップル(ブライアン・ダーカー、キャスリーン・キーナー)、家族を失って長いこと孤独な人生を歩んできた老人(ハル・ホルブルック)などと知り合い、彼等の援助もあって無事にアラスカでの一人暮らしを始めるが、自分が自然の生活の中ではいかに無知であることに気付いた時には時既に遅く、毒草を食べた挙句に餓死してしまう。

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何が彼をそこまでの行動に走らせたのか核心部分で解りにくいところがあるが、とにかく両親に対する反発から行動を起こし、様々な人々との交際の中から皮肉にも死ぬ間際に「幸福は分かち合って初めて真の幸福になる」という人生の真理を得、結局家族に思いを馳せながら果てていく悲劇である。最後に到達する結論には主人公が好きだったというトルストイの影響が感じられ、パステルナーク「ドクトル・ジバゴ」が絡んでくるのも興味深い。

学業だけができて本当の意味での知性が未成熟、若気の至りに尽きる行状だけに大人になった僕らをイライラさせる部分が相当にある主人公ではあるものの、人生行路を描くドラマでは単純に登場人物に共感若しくは感情移入できるかどうかのみで作品に対する好悪や評価を決めるのは早計、そこに至る背景や心情を洞察していかなければならず、作品としてはそれをきちんと描けているかどうかが重要になる。本作の場合は人々と触れ合う展開の中にきちんと描写を重ねて背景が理解できるように設計され、その辺り過不足はない。
 それにも拘わらず主人公を突き動かした要因たる“不満”“要望”が解りにくいのは、人間の行動には割り切れない要素が多分にあるということだろうし、その不確実さが青春の証と言えば言えないこともない。結局、我々の心に残るのは人生という荒野を彷徨する若き魂であり、最終盤には胸が締め付けられっぱなしになる。

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映像は抜群に美しいが、セミドキュメンタリー・タッチの中で撮影に必要以上に凝り過ぎた部分が無きにしも非ず。

配役陣はいずれも充実で、エミール・ハーシュは「スピード・レーサー」とは全く違う現実味のある若者を熱演。彼の両親に扮するウィリアム・ハート、マーシャ・ゲイ・ハーデンも印象深い。「ダーティハリー2」の悪徳警部が印象的なハル・ホルブルックはさすがにお年を召したが、誠に滋味溢れる演技で観ているこちらもしんみりとしてしまう。

“マジック・バス”と聞いてザ・フーを、“スーパートランプ”と聞いて「ブレックファスト・イン・アメリカ」を思い出す貴方はロック通。

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イントゥ・ザ・ワイルド
  原作:ジョン・クラカワー? ...続きを見る
映画と暮らす、日々に暮らす。
2009/09/12 16:06
『イントゥ・ザ・ワイルド』
※映画の核に触れる部分もあります。 鑑賞ご予定の方は、その後で読んでいただいた方がより楽しめるかも。 ...続きを見る
ラムの大通り
2009/09/12 16:35
映画「イントゥ・ザ・ワイルド」
原題:INTO THE WILD 予告も見ず、予備知識も何一つ得ないまま、ただタイトルに興味を惹かれての映画鑑賞だったけど、魂を揺さぶられると言っていい〜衝撃の実話の映画化〜 ...続きを見る
茸茶の想い ∞ 〜祇園精舎の鐘の声 諸行...
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「イントゥ・ザ・ワイルド」
徹底的にストイックな旅・・原作が読んでみたくなりました ...続きを見る
心の栄養♪映画と英語のジョーク
2009/09/12 20:56
イントゥ・ザ・ワイルド/エミール・ハーシュ
話題作だと思っていたら意外と公開規模が小さいんですよね。でもそのおかげでTOHOシネマズららぽーと横浜のプレミアスクリーンで観ることが出来ました。ここはゆったりしていて快適なんですよね。 ...続きを見る
カノンな日々
2009/09/12 22:16
★「イントゥ・ザ・ワイルド」
今週の平日休みはラゾーナ川崎の「109シネマズ川崎」でこの作品。 ショーン・ペン監督作品で、 「スピード・レーサー」に主演のエミール・ハーシュがまたまた主演。 実話ものらしいけど、アラスカ・・って、見るからに寒そう。 ...続きを見る
★☆ひらりん的映画ブログ☆★
2009/09/13 00:43
270「イントゥ・ザ・ワイルド」(アメリカ)
そして僕は歩いていく、荒野へ  1990年夏、アトランタのエモリー大学を優秀な成績で卒業した22才の青年・クリス・マッカンドレス。卒業祝いに両親から新車を買ってやるという申し出を断り、預金全額を慈善団体に寄付し、家族に何も告げず、無一文で旅に出る。  道中、様々な出会いと経験を重ねるクリス。サウスダコタでは、頭でっかちな彼に、労働と、友人と朗らかに生きることを教えてくれたウェイン・ウェスターバーグと出会い、スラブスではヒッピーらが集まるコミューンで、美しい16歳の少女・トレイシーと出会... ...続きを見る
CINECHANの映画感想
2009/09/13 01:43
イントゥ・ザ・ワイルド
試写会で見ました。 ショーン・ペンが10年かけて構想して作った映画らしい。 ショーン・ペンはあまり好きではないが、興味津津。 ウィリアム・ハートを見るのも久しぶりかも。 原作はアメリカでベストセラーになったジョン・クラカワーの ノンフィクション小説『荒野へ』。 未 ...続きを見る
映画、言いたい放題!
2009/09/15 23:17
イントゥ・ザ・ワイルド
Into the Wild (2007年) 監督:ショーン・ペン 出演:エミール・ハーシュ、キャサリン・キーナー、ヴィンス・ヴォーン、ハル・ホルブルック アラスカの山中で死体で発見された若者が死に至るまでの2年間の軌跡を追った物語。 主人公は実在の人物で、残された日記や手紙、関係者の証言を基に書かれたジョン・クラカワーの著書を映画化した作品。 主人公の考え方は別として、その行動には共感できる部分が少なくなく、自己を証明する物=アイデンティティを全て捨て、文明社会から離れ、大自然と向き合う姿には... ...続きを見る
Movies 1-800
2009/09/17 00:52
「INTO THE WILD/イントゥ・ザ・ワイルド」
2007年/アメリカ/148分 at:TOHOシネマズ梅田 ...続きを見る
寄り道カフェ
2009/09/17 14:25
mini review 09392「イントゥ・ザ・ワイルド 」★★★★★★★☆☆☆
すべてを捨てアラスカへと放浪の旅へ出た裕福な青年の心の軌跡を描いた人間ドラマ。ショーン・ペンが監督を務め、原作は冒険家ジョン・クラカワー著のノンフィクション小説「荒野へ」。前途有望な未来を捨て自由を選択したすえに悲惨な最期を遂げる若者を演じるのは『ロード・オブ・ドッグタウン』のエミール・ハーシュ。『ダーティハリー2』のハル・ホルブルックが、愁いをたたえた老人の役で登場。青年が足を踏み入れていく、美しくも厳しいアメリカの大自然の映像も圧巻。[もっと詳しく] ...続きを見る
サーカスな日々
2009/09/22 02:39
Into the Wild 〜イントゥ・ザ・ワイルド〜
「Into the Wild 〜イントゥ・ザ・ワイルド〜」 感想 Into the Wild そして僕は歩いて行く まだ見ぬ自分と出会うために ...続きを見る
むーびーふぁんたすてぃっく
2010/01/16 19:46
映画『イントゥ・ザ・ワイルド』を観て
81.イントゥ・ザ・ワイルド■原題:IntoTheWild■製作年・国:2007年、アメリカ■上映時間:148分■字幕:松浦美奈■鑑賞日:9月27日、テアトル・タイムズスクエア(新宿)ス... ...続きを見る
KINTYRE’SDIARY
2011/02/14 23:12

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コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
いつも映画談義に寄って下さる方々など
拙宅では“あいつはいっつも同んじこと言ってる”と
思われてしまっているのか、当方とリンクされて
いらっしゃる方々もいささか開店休業が目立つ昨今、
病魔にもめげず毎日記事をUPされていらっしゃる
プロフェッサーには実に頭が下がります。(ぺこり)

前置きはこの辺にして、本作、公開後の
反響というか皆様の“ゆらめき具合”が
尋常ではなかった記憶がありますね〜。
特に実話の重みも加味されて若い男性諸君は
かなり考えさせられた内容だったのでは。
行動の是非など吹き飛ばすくらいの映像の
インパクトが映画館のスクリーンでは
ございましたよ〜。(^ ^)

ザ・フーもスーパー・トランプも
軽くスルーしてきてしまった私ですが
通ではありませんがロック好き、ではあります。(^ ^)
今頃気づいてもどうと言うことはないのですが
映画と似ててロックにも男性の好むのと
女性のそれとはかなり違うような気もします。
(- -)^^

TBさせていただきました。
vivajiji
URL
2009/09/12 16:26
vivajijiさん、こんばんは。

>開店休業
僕らと同じ2005年くらいに始めた方が昨年くらいから、どうも寂しい状態になっていますね。
おかげでコメントも減っています。TT

一方、本数だけはこなしている当方ですが、最近映画評の方針がすぐにまとまらないわ、適当な言葉が見つからないわで、こんなつまらん文章に何時間もかけることがしばしば。
実は参っておりますよ。

>若い男性諸君はかなり考えさせられた内容
そうかもしれないですねえ。
個人的には、親への反発もなく、自由への希求もなく、のんべんだらりと社会人になって現在に至る僕には、主人公には大して共鳴できず、寧ろ「親の気持ちもわからん不孝者」という印象の方が強いですが、まあかかる僕にも想像力はあるわけで、それが青春てなもんですよね。
確かにでかいスクリーンで見たら圧倒されるであろう映像美と孤高の青春像でした。ハッピーエンドという解釈も成り立ちますが、やっと人生の真理みたいなところに到達できたところで息絶えるのはやはり悲劇。

>ザ・フー
僕は二枚LP持っています。^^
ビートルズのポールが「ヘルター・スケルター」を作ったのは、僕が想像したジミ・ヘンドリックスではなくて、ザ・フーのサウンドの影響だそうです。

>スーパートランプ
一時期LPを買いたいなあと思っていましたが、結局買わなかった。^^;
70年代半ばにマーク・レスターがこのグループが好きと言っていたっけなあ。

>映画と似ててロックにも男性の好むのと女性のそれ
ミーハーではない女性は意外とヘヴィメタが好きじゃないですか?
男性は寧ろプログレだったり?
オカピー
2009/09/13 00:45
この映画、かなり観たいと思っていた作品なのに公開時に見逃していました!
もうWOWOWで放映してしまったんですね・・・
最近、音楽生活の方が中心のため、WOWOWでも映画を見逃しまくりです。
来月の再放送で観たいところです。

>“マジック・バス”と聞いてザ・フーを、“スーパートランプ”と
>聞いて「ブレックファスト・イン・アメリカ」を
>思い出す貴方はロック通。

はいっ私です。
The Whoの "Magic Bus"はポール・ウェラーが春の来日公演の時にカヴァーしていたりもしました。
Supertrampは存じていますが、やや守備範囲外で、同時代のオールドロックでは10CCの方が好みですねぇ。

ちなみに私はミーハーではなく、ついでに女性ですが、メタルは大の苦手で、案外、60年代〜70年代のサウンドではモッズとプログレが大好物です!
特にクリムゾンが好きですが、あ、でもよく音の趣味がヤローみたいって言われます 笑
RAY
URL
2009/09/13 02:07
RAYさん、こんばんは。

>WOWOW
27日にも再放送しますよ。
デジタルならハイビジョンです。

>10CC
シングルでは「アイム・ノット・イン・ラブ」が有名で、映画の中でもよく使われていますね。
LP「愛ゆえに」は後年中古店で買いました。
中心メンバーのグレアム・グールドマンはホリーズの名曲「バス・ストップ」を作った人ですね。

>音の趣味がヤロー
クリムゾンがお好きならそう言われますねえ。^^
オカピー
2009/09/13 21:33
これはアメリカの広大かつ逞しき荒野をスクリーンで観てほしかったなぁ。
若者がこういう旅をする、できるという、何もない荒野がただ広がっている。
なんだかんだいってもアメリカの懐の広さと深さを感じた映画でした。
ショーン・ペン…監督としての彼のほうが好きだな。役者の彼は爬虫類的でどうも…でもサント監督の「ミルク」での役者としての彼は良かったわ。もうそろそろ放映されるでしょうね。本作主演のエミール・ハーシュがまた違う雰囲気で彼も良かったわ。

主演の彼がまた違った雰囲気で出ていたわ。
シュエット
2009/09/17 14:32
シュエットさん、こんにちは。

>スクリーンで観てほしかったなぁ
すんまそん。<(_ _)>
田舎故の映画環境、何年も前からの体調の問題等があって、なかなかね。
TVは周囲を気にする必要もなく、集中できるので良い面もあります。

>ショーン・ペン
僕の中でもシュエットさんと同じような印象ができつつありますね。役者としてはルックス的に元来好きになりにくいタイプ。

>「ミルク」
WOWOWでは来年じゃないかなあ。
サントは彼本来の路線で作ると苦手ですが、一応期待しておりますです。^^
オカピー
2009/09/18 14:00

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