プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

help RSS 映画評「迷子の警察音楽隊」

<<   作成日時 : 2009/02/19 15:01   >>

ガッツ(がんばれ!) ブログ気持玉 5 / トラックバック 10 / コメント 6

☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年イスラエル=フランス映画 監督エラン・コリリン
ネタバレあり

「グローイング・アップ」シリーズ以降なかなか目にすることはなかったイスラエル映画の話題作で、カンヌ映画祭の【ある視点部門】審査員長賞など多数受賞している、とのこと。

一昔前のこと、エジプトのアレキサンドリア警察音楽隊8名がイスラエルの空港に降り立つが、迎えの者がない為に自力でバスの切符を買って到着した先は目的地のペタハ・ティクバではなくベイト・ティクバ、砂漠の中の小さな町。ホテルもないので困り果てていたところ、食堂の女主人ディナ(ロニ・エルカベッツ)が面倒を見てくれ、団長(サッソン・ガーベイ)と別の場所に到着する原因を作った女好きの若者カーレド(サーレフ・バクリ)の二人は彼女の家に泊まることになる。

画像

最初の数カットから一見してアキ・カウリスマキ風のタッチで、ユーモアとペーソスが相半ばして進行する辺りに共通する味わいが見出され、誠に微笑ましい。

以降中心となるのは、息子を自殺に追い込んだ後その心痛で妻も失った老団長と子供を作ることなく夫と別れた40歳くらいのディナとが音楽談義などを通して心を通い合わせていく様子や、スケート場に出かけ恋愛体験に乏しい男女に恋愛指南をする若いカレードの憎めない人間ぶりで、ユダヤ人とアラブ人の最初はぎこちなかった関係が次第に滑らかになっていくエピソードに監督エラン・コリリンが込めたのは、イスラエルとパレスチナの現時点におけるきな臭い関係の改善への思いであろう。

画像

特定されていない時代設定は1993年のオスロ合意以降数年内と考えれば良いが、パレスチナを巡る紛争は、和平を推進したイスラエルのラビン大統領が自国の反和平派青年に暗殺された事実が示すように、国家同士以上に市民レベルの憎悪感情に基づいていると僕は思っている。
 とは言え、イスラエルの人々が「エジプトのドラマを見てその主役俳優オマー・シャリフやファテン・ハママに憧れていた」ように、互いが相手に対して常に最悪の感情を持っているとは限らないわけで、そうしたソフト面に作者は両民族和平への僅かな足がかりを見出し、本作を作ったような印象を受ける。

画像

勿論音楽もそのソフト面の一つで、アメリカの有名なポピュラー・ソング「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」「サマータイム」「サニー」の選曲と使い方が上手く、音楽が民族、年齢、男女といった様々な垣根を取っ払っていく辺りじ〜んとさせられてしまう。
 といった次第で、戦争の傷跡や両民族の感情のもつれを敢えて描かず普遍的な人間ドラマとして仕立てたのが後味の良さに繋がっていて、台詞が些か硬い感じがする以外は上首尾と言うべし。

カウリスマキが変名で作っているんじゃないの?(笑)

テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ
気持玉数 : 5
ガッツ(がんばれ!) ガッツ(がんばれ!)
驚いた
ナイス
かわいい

トラックバック(10件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
映画 【迷子の警察音楽隊】
映画館にて「迷子の警察音楽隊」 ...続きを見る
ミチの雑記帳
2009/02/19 16:17
★「迷子の警察音楽隊」
今週は三連休なので、2日連続レイトショウ鑑賞しましたぁ。 今回は川崎チネチッタで・・・。 いやいや、イスラエル映画は初めてじゃないかなっ。 見慣れない文字(ヘブライ語かアラビア語)が出てきた時にはびっくりしたぁ。 ...続きを見る
★☆ひらりん的映画ブログ☆★
2009/02/19 23:11
映画「迷子の警察音楽隊」
原題:Bikur Ha-Tizmoret/The Band's Visit いかにもコメディを思わせるタイトルだけど、これがなかなか人間味溢れるハートウォーミングな物語、さすがに各国で34もの受賞があっただけのことはある〜 ...続きを見る
茸茶の想い ∞ 〜祇園精舎の鐘の声 諸行...
2009/02/20 00:29
mini review 08305「迷子の警察音楽隊」★★★★★★★★★☆
隣国同士でありながら、長い間敵対してきたイスラエルとエジプトの市民が音楽を通じて交流を深める夢のような一夜の物語。1990年代のイスラエルを舞台に、ユダヤの地に迷い込んだエジプト人と、現地のユダヤ人のほのぼのとしたやりとりをじっくりと見せる。誇り高き団長を演じるのは、イスラエル映画界を代表する名優サッソン・ガーベイ。民族や言葉が違っても、心を通わせることができるというメッセージが胸を打つ。[もっと詳しく] ...続きを見る
サーカスな日々
2009/02/20 00:50
「迷子の警察音楽隊」
THE BAND'S VISIT 2007年/イスラエル・フランス/87分 at:シネ・リーブル梅田 ...続きを見る
寄り道カフェ
2009/02/20 09:29
「迷子の警察音楽隊」
迷子の警察音楽隊Nikkatsu =dvd=このアイテムの詳細を見る ちょっと昔の話。イスラエルに新しくできたアラブ文化センターでの演奏を依頼されたエジプトの 警察音楽隊。揃いのスーツに身を包み、イスラエルの空港に降り立つ。しかし何かの手違いか、 空港に出迎えの姿はなく、誇り高き団長トゥフィーク(サッソン・ガーベイ)は自力で目的地を 目指すことに。ところがたどり着いた先は、目的地と似た名前の全く別の場所。そこは、ホテル なんて一軒もない辺境の町。一行は、食堂の美しい女主人ディナ(ロニ・エルカベッ... ...続きを見る
心の栄養♪映画と英語のジョーク
2009/02/20 09:32
迷子の警察音楽隊
一目惚れしてサクラグランプリ〜♪ ...続きを見る
シャーロットの涙
2009/02/20 12:40
迷子の警察音楽隊(映画館)
エジプトからやってきた音楽隊が届けたものは、人が恋しくて、家族が大切で、そんな当たり前なことが大事に思える素敵な夜でした。 ...続きを見る
ひるめし。
2009/02/20 13:15
『迷子の警察音楽隊』
JUGEMテーマ:ミニシアターが好き☆こんばんは、あざらしです。『迷子の警察音楽隊』というイスラエル映画?を見ました。友人のお勧めでみました。砂漠に取り残された制服姿の音楽隊が妙にかわいらしかった。とりたてて何か大事件がおこるでもなく、イスラエルの砂漠の辺鄙な町に残された一夜のちょっとした話です。でもなんだか雰囲気のある、哀愁のようなおかしみのようなものが漂っているというか。アキ・カウリスマキ の映画の空気感を思い出しました。こういう映画、嫌いじゃないです。あ、ちなみに西武池袋線の江古田駅近くに... ...続きを見る
脚本家になりたい!シナリオ研修生の映画・...
2009/04/10 01:03
『迷子の警察音楽隊』2007 イスラエル・フランス ◎
映画評「迷子の警察音楽隊」 (「プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]」さん) ...続きを見る
すずめの映画日記
2009/07/20 08:20

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(6件)

内 容 ニックネーム/日時
TBありがとう。
僕はこの作品、ほぼ最高得点なんです。
カウリスマキの変名かもしれないけど(笑)、この無名の監督のかなり微妙なテーマを、こんなにあっけからんと提出しちゃったということに、感銘を受けました。
この映画は、まったくの低予算でつくちゃってますね。
でも、喜劇仕立てだけど、とてつもない世界性、普遍性を持っていると思っています。
邦画の若手の連中も、ちょっとほめられて閉鎖的な世界の中で、充足してんじゃないよというか(笑)
kimion20002000
URL
2009/02/20 00:56
kimion20002000さん、こんばんは。

>ほぼ最高得点
そのせいか、ここへのコメントもいつもの3倍くらいになっていますよ。(笑)

>微妙なテーマを・・・感銘を受けました。
仰ることはよく解りますが、
僕はその辺は鈍感、否、敢えて鈍感にしています。
スクリーンだけを見つめています。^^

>世界性、普遍性
そうですね。
日韓関係、日中関係もそう褒められたものじゃないですし。
時間という感点でも、一応過去の舞台にしていながら、実は未来に向けた寓話ととらえれば、現在もであり未来でもあるわけですし。

>邦画の連中
ある意味恵まれ過ぎ、ある意味環境が悪い。
良い映画が生まれる余地が余りに乏しい気がしています。
オカピー
2009/02/20 01:43
ちょっとご無沙汰です。
ブログ記事をせっせとあげてたら、お邪魔する時間がなくって…ジレンマですね。
さて、さて、この映画なんかいいですよね。ラストの演奏シーンも良かった!
胸にジーンと来ました。
カウリスマキはもうちょいと屈折したテイストだわ。
いわゆる第三世界の作品の公開も最近は多くって嬉しい限りで、それらの作品になぜか共通するのは、頑固さと、飄々としたユーモアと、動じない明るさを感じる作品が多い。明るい希望的作品なのだけれど、わざとらしさがなくって、どっか切実さの上に立った説得力みたいなのが感じられる。
シュエット
2009/02/20 09:28
シュエットさん、こんばんは。

最近凄いペースですね。余り無理しないで下さいよ。
僕はどうも自律神経失調症みたいです。

>カウリスマキはもうちょいと屈折したテイスト
内容的にはね。
僕はほれっ、小津安二郎タッチのイメージが強くて。
固定ショットの積み重ねの間、とか。

この監督は小津の直伝なのか、カウリスマキの影響なのか判然としませんが、「かもめ食堂」の荻上直子なんかはカウリスマキの影響下にあるようで、僕は小津の孫のように感じているわけ。
やはりコリン星人(笑)、いやコリリン監督は小津の孫という気がします。

小津には相似形のショットという特徴があって、上に掲げたローラースケート場のショットはまさにそれ。ニヤッとしてしまいました。

>第三世界の作品の公開も最近は多く
WOWOWだけだと若干限られるので、それほど実感はないですが、少なくとも僕らの若い時代にはなかった傾向です。
イスラエルの人々は自分たちを欧州人と思っているのではないかと思いますけどね。(笑)
オカピー
2009/02/21 02:32
本作は記事にしていないけれど、わたしもお気に入りです。
あ、わたしは「ガッツ」じゃなく、「かわいい」を押しちゃいました!

だって、あの最後のバイバイ!可愛い映画ですよ。
ここにも小津の孫がいましたか。
なるほどそういわれれば同じ動作をやってましたよね。
わたしは同じ仕草のくりかえしは非常に音楽的だと思ったんです。
本作自体も登場人物たちそれぞれが1小節の曲を持ち寄って、それが響きあい、交響曲が完成していくようなそんな雰囲気を感じました。
みんながタクトを振っているようなね。
静かな部屋で未完成の曲が完成するエピソードもとてもよかった。
しゅぺる&こぼる
URL
2009/02/23 20:51
しゅべる&こぼるさん、こんばんは!

>最後のバイバイ!
その前に、ヒロインが握手をしようとして手を引っ込めてしまうところが布石になっていたかな。
「余り堅苦しいのは止めよう」ということだったのではないでしょうか(と言いつつ、団長の言葉使いは再び固くなっていましたが)。

>同じ仕草のくりかえしは非常に音楽的
なるほど。
小津の場合は父と息子との相似が多いのですが、音楽が絡んだ場面でも使われたことがあり、そういう意味でもしゅべる&こぼるさんの発想は正しいのかもしれませんぞよ。

>登場人物たちそれぞれが1小節の曲を・・・交響曲が完成していく
とても文学的というか詩的というか、素晴らしい表現ですね。
作者が音楽をモチーフにしたのが作品として上手く表現されているのでしょう。
オカピー
2009/02/24 02:42

コメントする help

ニックネーム
URL(任意)
本 文
映画評「迷子の警察音楽隊」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
[ ]