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zoom RSS 映画評「長江哀歌(エレジー)」

<<   作成日時 : 2008/08/18 14:43   >>

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☆☆☆★(7点/10点満点中)
2007年中国映画 監督ジャ・ジャンクー
ネタバレあり

ジャ・ジャンクーは最近評判の良い中国の監督だが、僕は余り評価してこなかった。カメラを据え置いたまま長々と撮るといった手法が余りに非映画的すぎるからだ。
 長回しは溝口健二やある時期のヒッチコックのように句読点をきっちり使わないと、演劇的になるか現実的になるかして、映画ならではの美しさやダイナミズムを感じさせることはできない。現実的である前に映画的であるのが真に優れた映画の要件だが、ジャに限らず、映画の良い部分を使おうとしない作家が多いのが現実である。

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中国中部、長江(揚子江)沿いの古い町・奉節。山西省の労務者(ハン・サンミン)が船より降り立ち、三峡ダムの建設の為に沈むこの町で限りなくある建物の解体作業に従事しながら売買結婚の末に16年前に出て行った妻と娘を探し始める。
 他方、この町に一人の中年女性(チャオ・タオ)は2年前に工場へ働きに出たまま帰らない夫を探しに来るが、再会した夫が女性経営者と懇ろになり事業家に出世しているのを知り「好きな人と上海へ行く」と嘘を付き、上海行きの船に乗る。
 やがて、妻に再会した労務者は妻が兄の借金のかたに取られていることを知り、山西省の炭坑夫に戻って請け出す決心をする。

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というお話は、中国100年の念願とも言われる三峡ダムの建築にまつわる労働者やその家族の姿を追ったものであるが、このとてつもなく巨大な三峡ダムは中国近代化の光であり、その光は必然的に沈む町や追い出される町民、出稼ぎ労働者の苦闘という影を投ずることになる。主人公の男性も女性も歪みを伴う中国近代化の渦に巻き込まれる小さな存在である。

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今回ジャ・ジャンクーはゆっくりパンしながら長江と奉節の街を素晴らしい構図で捉え、これまでの散文的な長回しとは一線を画する映像詩を構成している。そこに生活詩とでも言うべき小さな物語を乗せ、少なからぬ感銘を我々にもたらす。文明批評というレベルを遥かに超えている。
 彼は映像に登場人物の心情を深く沈潜させる技術を取得したようであり、著しい進境を見せていると言うべし。テオ・アンゲロプロスにも似た美しさである。

ただ、ビルがロケットになって飛んでいくといったショットの挿入は、稀に観る美しい映像詩とでも言うべきこの作品に馴染まず、甚だ興醒めさせる。

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「長江哀歌」
三峽好人(STILL LIFE) 2006年/中国/113分 at:テアトル梅田 ジャ・ジャンクー監督作品は、前作「世界」についで2作目。 「世界」は、中国の北京郊外に実在するテーマパーク「世界公園」を舞台にした物語。ダンサーとして世界各国の衣装を身につけて、世界公園の中にある様々な国を回るけれど、彼女達の人生は、その公園から一歩も出ることがない、そんな若い彼女たちの人生模様を描き出したドラマ。経済発展が著しい中国の華やかな虚構の世界の中に生きる彼女達の実態を描いたのだろうけれ... ...続きを見る
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2008/08/19 15:39
映画 【長江哀歌】
映画館にて「長江哀歌」 ...続きを見る
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2008/08/21 00:28
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ロケット発射!って、それ北野映画じゃ・・・ ...続きを見る
ネタバレ映画館
2008/08/30 08:56
<長江哀歌> 
2006年 中国 113分 原題 三峡好人 監督 ジャ・ジャンクー 脚本 ジャ・ジャンクー 撮影 ユー・リクウァイ 音楽 リン・チャン 出演 チャオ・タオ  ハン・サンミン  ワン・ホンウェイ    リー・チュウビン  マー・リーチェン ...続きを見る
楽蜻庵別館
2008/09/05 17:56
mini review 08329「長江哀歌(エレジー)」★★★★★★★★☆☆
長江の三峡ダム建設のため、水没する運命の古都・奉節を舞台にした人間讃歌。『世界』などのジャ・ジャンクー監督がタバコ、草、酒、茶、飴という市民の生活に根ざした嗜好品を題材に、美しくせつない物語を紡ぎ出す。『プラットホーム』のハン・サンミンが等身大の中年男を好演し、現地で起用された素人俳優たちと素晴らしいアンサンブルをみせる。本作は力強く生きる人々の現実と景勝地の最後のきらめきをとらえ、2006年ベネチア国際映画祭でグランプリを獲得した。[もっと詳しく] ...続きを見る
サーカスな日々
2008/10/12 05:14
映画評「山河ノスタルジア」
☆☆☆★(7点/10点満点中) 2015年中国=日本=フランス合作映画 監督ジャ・ジャンクー ネタバレあり ...続きを見る
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2018/04/02 08:45

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コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
>生活詩とでも言うべき小さな物語を乗せ、少なからぬ感銘を我々にもたらす。文明批評というレベルを遥かに超えている。彼は映像に登場人物の心情を深く沈潜させる技術を取得したようであり、著しい進境を見せていると言うべし
と思うのですが…「世界」と比べると彼の描こうとしたテーマは伝わってきたけれど、それが頭ではわかっていても、どうもこの方の映像って胸にストレートに響いてこないんですよね。私には。こういう作風の方なんでしょうか。受賞作品ということで劇場は満席だったけど大半は寝たはりました。それよりも先日見たドキュメンタリー「今ここにある風景」で山峡ダムの工事現場をカメラで切取った一枚の映像が胸に迫り、押し寄せるものがありました。
今度WOWOWで彼の監督デビュー作「一瞬の夢」が放映されるから観てみようと思います。
シュエット
2008/08/19 15:38
シュエットさん、こんばんは。

>受賞作品ということで劇場は満席
カンヌとベネチアは、近年セミ・ドキュメンタリーを高く評価する傾向があるので、普段余り映画を観ない人がこちらの受賞作を観に言ってもダメですね。

>「世界」
は僕も5点を出して<ダメ出し>しました。
セミ・ドキュメンタリーはどうも非映画的なので、あるレベルを超えて<詩>を感じさせる境地まで行かないと感心できませんが、本作はその意味で大変充実していたと思いますね。
但し、時に挟まれる変な映像故に減点です。

>一瞬の夢
多分つまらないと思います(笑)。
オカピー
2008/08/20 02:04
こんにちは。
とても即物的なテーマだし映像だし。
でも、詩情があるんですね。
これってなんかなあ、と思っていたんですけどね。
どこか<俳諧>を連想させます。
もちろん、中国だと、長歌とか漢詩になるんでしょうけど、なんかそこにあるもののそのままの切り出し方がね・・・。
kimion20002000
URL
2008/10/13 19:52
kimion20002000さん、こんばんは。

>詩情
生活詩といったジャンルがあるように、我々が見れば散文的で即物的で面白くないものでも、優れた詩人が扱えば、単なる叙情詩より詩情溢れたものになりますよね。
正確な理由は解りませんが、今回構図が圧倒的に優れていたことは認めらえます。しかし、それだけでは説明できない何かがあるんです。
映像のトーンだろうか、繋ぎの呼吸だろうか。前作までと大きくは変わっていないのに、風景に登場人物の心理が沈潜して、不思議と胸に迫るんですね。

<俳諧>を思い出させるのはやはり映像の中に具体的な生活があるからなのかもしれませんね。
オカピー
2008/10/13 23:59

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