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zoom RSS 映画評「木靴の樹」

<<   作成日時 : 2005/11/16 16:37   >>

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☆☆☆☆☆(10点/10点満点中)
1978年イタリア映画 監督エルマンノ・オルミ
ネタバレあり

エルマンノ・オルミが他にどんな作品を作っているか全く知らないのだが、少なくともこの作品を見る限り正当なネオ・レアリスモの伝統を感じさせる作風である。25年前この作品を初めて観た時、当時まだ日本では劇場未公開でフィルムセンターで鑑賞したルキノ・ヴィスコンティの秀作「揺れる大地」との相似性にも興奮させられたのを思い出す。

時代背景は19世紀末、ある寒村の小作農の4家族の生活が丁寧に描き込まれる。おかげで3時間に及ぶ大長編になっているわけだが、農村風景を描いた場面はまるでミレーの絵画、家の中の場面はレンブラントの絵画のようで、この絵画のようなカットの数々を見続けるだけでも満足できる。

結婚式を挙げた若い夫婦が川を下っていく場面が映像的にはハイライトであろうが、父親が息子の木靴を作る為に木を切り作る場面には思わず胸に熱いものが込み上げた。しかし、それが地主にばれて家を追い出されてしまう。他の3家族は黙って見送るしかない。

映画は淡々と事象を連ねていくだけだが、途中で僅かに挿入される社会主義運動家の演説を農民が聞いている場面を考えると、自ずと理解できるものがある。しかも、その演説の間に小金を拾う男の喜劇的な描写には風刺的な色合いもにじむ。まさに名画である。

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「ピロスマニ」「木靴の樹」
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『若者のすべて』@〜赤い公爵 ヴィスコンティ〜
 資本主義的生産様式は、最終的に労働力を商品とする社会です。そして、プロレタリアートが労働力の売り手を見つけることを可能とするこの生産様式の歴史的段階では、強力な「貨幣と商品の循環」の状態が制度化されていなければなりません。  貨幣が生まれるためには、それほどの多くの「貨幣と商品の循環」は必要ではありません。しかし、資本が生まれるためには、この「貨幣と商品の循環」がすでに整備されていなければならず、そこでは、労働力を売り買いするための市場が強く必要とされます。  資本を集め、積み重ねていく商... ...続きを見る
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映画評「緑はよみがえる」
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プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]
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コメント(15件)

内 容 ニックネーム/日時
こんばんわ。初めまして。
今年友達がとってくれたBSのビデオでみたのですが、初めは何を伝えたいのかわからなかったです。木靴を作ってやる場面に納得しました。レンブラントの絵画のようというのも、わかる気がします。私も10点満点です。
アールグレイはいかが?
2005/11/16 17:47
<アールグレイはいかが?>さん、初めまして。
25年ほど前に映画館で観て映像の力に感銘を覚え、その年のベスト1にしました。夫々のエピソードもなかなか味わいがあるのですが、やはり絵画を思わせる映像に圧倒されます。出来れば、もう一度大スクリーンで観たいものです。また、お越しください。
オカピー
2005/11/17 15:32
ご指摘の通り、ミレーの絵画を観ている様な絵画的な要素と、農奴制に触れたロシア文学を読んでいるような文学的な作品に思えました。馬のひずめに金貨を隠して、無くしてしまうエピソードは笑えました。ルキノ・ヴィスコンティの「揺れる大地」は未見なので、今度探してみたいと思います。
ぶーすか
2008/07/04 09:58
ぶーすかさん、こんばんは!

絵画的要素とリアリズムというのは、映画においては、矛盾する要素なのではないかと思いますが、見事に達成している感じです。
文学的な要素も多分にありますね。

>揺れる大地
フィルムセンターで観た時のタイトルは「大地は揺れる」でしたが、幸いにも日本語字幕がありました。
今観るとどうか解りませんが、当時は興奮するくらい似ているなあ、と思いましたよ。DVDも出ておりますので、最悪買ってでも(笑)ご覧になる価値ありです。
オカピー
2008/07/04 22:58
一度、夜遅くにみて、最初の1時間あたりで寝てしまった作品ですが、
やっとこの日曜日にあらためて観る時間ができました。観終わった後、すぐにもう一度観たくなりました。何度でも観たくなる作品!ネオ・レアリズモの流れをひいているとかどうとかは分かりませんが、とにかく素晴らしい!
記事の中で勝手にP様とP様の文を引用させていただいてます。(事後承諾ペコリ)TBもってきました!
シュエット
2008/09/01 15:57
シュエットさん、こんばんは。

>最初の1時間あたりで寝てしまった作品
じっくり撮られた作品ですから、「さもありなん」です。
これを以って作品として良い悪いは判断できませんね。

>ネオ・レアリズム
僕はこの映画を観る1年くらい前に「揺れる大地」を観たので、非常に似ている印象を覚えたんです。
例によって直感でそう思っているだけですが、
間違いないでしょう(爆)。

>事後承認
まるごと持って行ってくださっても結構です(笑)。
名誉なことです。
オカピー
2008/09/01 23:07
オカピーさん、こんばんは。
素晴らしい作品ですね。
>絵画のようなカットの数々を見続けるだけでも満足
ヴィスコンティや黒澤も絵画的な作品といえそうですが、ヴィスコンティは当時のネオ・リアリズム特有の情緒を大切にしていたように思いますし、黒澤の絵画はポエジックです。
また、ゴダールは自ら印象派の末裔だと称しています。
比して、実に写実、それも自然主義の農民画としての写実、そしてコミュニズムやプロレタリア文学に直結する意味でもやはりバルビゾン派のミレーだと思います。
トム(Tom5k)
2008/09/02 22:29
>続く
そういう意味では、おっしゃるように
>社会主義運動家の演説を農民が聞いている場面
ネオ・リアリズモの正統的な後継者でしょうね。たしかに「揺れる大地」と並列できると思います。恐らく、あの一家のその後は「若者のすべて」ということになるでしょう。
映画が第七芸術であることをあらためて認識できますが、オカピーさんは、リアリズムよりストーリー・プロット、絵画より映像テクニック、写実よりファンタジック、芸術より娯楽、である方と、勝手に認識していましたが、この10点、どのような映画価値を見出されたのでしょうか?
オカピー評が実に興味深いです。
いずれにしてもこの作品は素晴らしい。本当に美しかった。
では、また。
トム(Tom5k)
2008/09/02 22:30
トムさん、こんばんは。

>どのような映画価値
現在バタバタとしていてゆっくり答えられません。

が、8月18日にUPした「長江哀歌」の記事にヒントがあるのではないかと思いますので、答えられるまでちょっと参考にしてみてください。
オカピー
2008/09/03 05:14
トムさん、こんばんは。

返事が遅れてしまいました。
当方の映画評価傾向の余りに鋭い分析に感心し、その辺りどう返事しようか、或いは簡単なコラムにでもしようかと迷った末に、結局ここで簡単に答えることにしました。後日コラムにでもしたためたい興味深い問い合わせでしたよ。

>リアリズムよりストーリー・プロット
全くその通りですね。どちらにしてもそこに実際の人間が感じられないようでは良い作品とは言えないと思います。

>絵画より映像テクニック
概してそうですね。
映画の最大の特徴は劇画のような非連続的なものでも、舞台のような現実に近い連続性でもなく、適度な連続性です。映画を映画たらしめるこの特性を生かしたものが一般的に優れたものと考えてします。

>写実よりファンタジック
そうですね。
但し、ファンタジーの中に現実が見えないのはダメです。
逆に大きな興奮を感じさせるような写実は結局映画ならではの夢に我々を誘いますから、その差は実は微妙なものです。
(続く)
オカピー
2008/09/07 17:33
>芸術より娯楽
これは非常に難しいのですが、一般的な語義から言えばそういう傾向にあるでしょうね。
但し、僕の考える映画の対立軸は娯楽対芸術というより、娯楽対文学です。所謂芸術寄りと言われる作品の多くは実は文学的なテーマを映画に移していると思うわけです。

娯楽映画も文学寄り映画も実は大きな主題や狙いにより構成されています。その主題をいかに効果的に描くか、その狙いをいかに正しく表現するか、そのプロセスや表現方法即ち技術が、僕にとっての【映画芸術】です。
【芸術】という意味は分野ごとに異なる。映画においてはその過程の美しさ即ち達成度こそ芸術であり、僕にとって評価の基準はそこにあります。
映画の評価において大事なのはテーマではありません。テーマが一番大事とされるべきは文学であり、僕が常々「映画は文学的すぎてはいけない」というのはほぼその意味です。
(さらに続きます)
オカピー
2008/09/07 17:42
というわけで、本作が素晴らしいのは、オルミが定めたであろう、プロレタリア階級の苦闘と歴史的現実という主題を絵画的な表情をもって描くという狙いが、ほぼ完璧に達成できていると感じたからにほかなりません。

従って、映画を評価する前提は主題と狙いを正しく見極めること。このスタートを誤っては正しい評価はできず、逆にテーマも狙いも碌に解らないような作り方では高い評価も与えにくい、というのが僕の考えです。

そして、ストーリーか撮影か、或いはトムさんがご指摘した対立関係においてもバランスを保って対峙する。そのバランスは極論すれば映画一本一本により変わりますからその辺りをよく見極め、極端に走っていない限りはその範囲で正確に判断しないとならないでしょう。
例えば、「第三の男」は物語を表現する為に映像が考えられたのではなく、映像のレトリックを極める為に単純なストーリーが用意された映画であるということをきちんと理解しないと、正確な評価を与えられないのではないでしょうか。
オカピー
2008/09/07 17:43
オカピーさん、こんばんは。
不躾な質問すみませんでした。また、ご丁寧なご回答、感動的です。
>簡単なコラム
これは、オカピーブログの理解を深めるうえでも、たいへん素晴らしい企画ですよ。是非是非。
>実際の人間が感じられないようでは良い作品とは言えない・・・
まったくです。逆に言えば、そこがちゃんと描かれていれば、どのような体系でも傑作になり得ると思います。
>劇画のような非連続的・・・舞台のような現実に近い連続性でもなく・・・
これも良くわかります。ヌーヴェル・ヴァーグや溝口などの長回しなど、ひとつ間違えれば、駄作になってしまいますよね。
>ファンタジーの中に現実が見えないのはダメ・・・大きな興奮を感じさせるような写実・・・
ここもオカピー評の柔軟で深いところでしょうか。複雑なものを複雑なままポイントを抑える。本物と偽物の違いを見極める大切な発想のような気がします。
>娯楽対芸術というより、娯楽対文学
映画自体が文学と類似しているわけですから、映画ならではの価値を考えるとき、ここははっきり見極めるべきでしょうね。かなり意識しないと混乱してしまうように思います。
トム(Tom5k)
2008/09/08 01:16
>続き
>映画においてはその過程の美しさ・・・
確かに美しさの表現が大きな目的であることに映画芸術の定義は当てはまるように思います。
>評価において大事なのはテーマではありません。
わたしはテーマの表現から受けたものが自分にとっての想起(喚起)に結びつくと感動してしまいます。確かに現代文化としての特徴が、つまり作り手が意図している以上の素晴らしさが生まれるのも映画特有のもの。文学や舞台を視覚映像に再現しただけでは映画ではないかも。
>プロレタリア階級の苦闘と歴史的現実・・・絵画的な表情・・・
映画の可能性や素晴らしさがこの作品からはほとばしり出ていますよね。映画ファンでよかったと思います。しかも映画絵画としてはかなり斬新だったのでは?
>主題と狙いを正しく・・・対立関係においてもバランスを・・・
このような映画的な見極めは大切ですよね。総合芸術として多くの分野を集約・統合した特徴があり、しかし、それらのどれとも異なるものですから批評も難しい。

う〜む、わたしの質問は、まさに愚問、オカピー評はそんな単純なものじゃないですね。
では、また。
トム(Tom5k)
2008/09/08 01:36
トムさん、こんばんは。

どんなコメントも結構ですので、躊躇せずにお願いします。

世の中はバランスが大事ですが、映画批評は正にその究極ではないかと日々思っておりますね。
例えば、「物語はダメだが映像は素晴らしい」で高評価してはいけないでしょう。多少評価を上げるのは当然ありうるわけですが。

>文学や舞台を視覚映像に再現しただけでは映画ではないかも。
概ねそう言っても間違いではないと思いますね。
しかし、僅かな変更で文句を言う原作ファンが多いのも事実。これは啓蒙しないといけないと思っているんですけど(笑)。
オカピー
2008/09/09 02:03

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