プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]

アクセスカウンタ

help RSS 映画評「おかあさん」

<<   作成日時 : 2005/11/30 13:35   >>

ブログ気持玉 0 / トラックバック 3 / コメント 4

☆☆☆★(7点/10点満点中)
1952年日本映画 監督・成瀬巳喜男
ネタバレあり

町田市で同級生による女子高生殺人事件があったが、この作品に出てくるような【おかあさん】がたくさんいた時代には考えられないような利己的な馬鹿げた事件である。

父親(三島雅夫)、母親(田中絹代)、長男、長女(香川京子)、次女、妹の息子から成るクリーニング一家の喜怒哀楽を綴ったお話で、開巻程なく療養所から母恋しさに帰ってきた長男が死んでしまう。
 帰ってきて母親と会話する場面の次は既に彼は故人になっていて、両親の態度も比較的淡々としているのが印象的である。彼らの周りには戦争で夫や息子を失った人々が溢れていることを示すカットをさっと挟むことで、この時代の死への思いが今とは多少違うことを感じさせる。ささやかながら省略が効果的に使われた好場面と言いたい。

兄を失った妹(長女)の欠落感は信頼しきっている両親への懸念に変わるが、父親が間もなく発病、やがて亡くなる。それだけでも悔しいのに、クリーニング店の手伝いをしている父親の知人(加東大介)と母の再婚の噂が出るとどうにも気に喰わない。
 語り手はこの長女で、パン屋の息子(岡田英次)がボーイフレンドである。次女の描写もなかなか良く、床屋を目指す叔母さん(中北千枝子)の修業の為に髪の毛を切られて泣く場面など小さなおしゃれさんの気持ちがよく描かれている。母親や姉を思って伯父夫婦に貰われていく健気さにも胸を打たれる。この母にしてこの子あり。

子供たちは母親に全幅の信頼を置いている。夫亡き後きちんとクリーニング屋を切り盛りする母親は優しくて力強い。常々「他人の役に立ちなさい」と言っていた説教が娘たちの精神に染み込んでいる。成瀬巳喜男監督がきちんと人物描写をしてきたからこそ、次女が少女らしからぬ決意をする場面も浮き上がらないのである。
 同時に丹念に庶民の生活を描写して、昭和27年頃の日本を見事に現出させている。作文を原作とした良さが出ているわけで、当時の日本ではどこにでもあった風景なのであろう。

映画の出来栄えとは全く関係ない話だが、田中絹代演ずる母親は正に理想的な母親像。ここまでは無理としても、母親だけでなく大人たちが義務をきっちり果たせば、ちょっとした行き違い程度で人を殺すような自己中心的な子供は育たない。そんな思いを強くしながら観終えた。

テーマ

関連テーマ 一覧

月別リンク

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!
ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。
→ログインへ

トラックバック(3件)

タイトル (本文) ブログ名/日時
<おかあさん> 
1952年 新東宝 99分 監督: 成瀬巳喜男  製作: 永島一朗  脚本: 水木洋子  撮影: 鈴木博  音楽: 斎藤一郎 美術: 加藤雅俊 出演 福原正子(母):田中絹代     福原良作(父):三島雅夫    福原進(兄):片山明彦    福原年子(私):香川京子    福原久子(妹):榎並啓子    信二郎:岡田英次      ノリコ叔母さん:中北千枝子    木村ショウキチ:加東大介      福原(親戚の伯母さん):一の宮あつ子   ...続きを見る
楽蜻庵別館
2005/11/30 14:49
『おかあさん』 〜成瀬演出の良心〜
1952年 日本・新東宝 監督:成瀬巳喜男 脚本:水木洋子 撮影:鈴木博 美術:加藤雅俊 出演: 田中絹代(福原正子) ...続きを見る
キネマじゅんぽお
2005/12/03 11:01
「おかあさん」〜子供が子供だった頃
1952年日本監督/成瀬巳喜男脚本/水木洋子出演/田中絹代 香川京子 岡田英二 三島雅夫   中北千枝子 加東大介 沢村貞子 片山明彦戦災で失ったクリーニング屋を再開した福原一家だったが、ラシャ屋に奉公に出ていた長男の進(片山明彦)が病気で亡くなり、父(三... ...続きを見る
お茶の間オレンジシート
2006/09/29 17:49

トラックバック用URL help


自分のブログにトラックバック記事作成(会員用) help

タイトル
本 文

コメント(4件)

内 容 ニックネーム/日時
こんにちは。お邪魔いたします。
映画評読ませていただいて,作品を観たときの感興がしみじみと甦ってきました。
私の父母が長女役の香川京子さんと同じ昭和一桁世代で,やはり兄弟が多くて,大家族で育ってきた昔の話をよくしてくれました。若くして亡くなった人(私の叔母さん)もいますし,他家から養女に来ていた人もいたりで,この映画のようなことは当時は一般的なことだったのだと思います。
今と比べると貧しいながら,しかし,みんなでいたわり支えあう家族の本来の姿とはこういうものなのでしょうか。
昨今,豊かさのために失われてしまったことの一つに,「家族の力」というのもあるのかもしれないと思いました。
ジューベ
2005/12/03 11:39
私の両親も昭和一桁ですが、母には八人の兄弟がいます。母は十代半ば函館に奉公に出され、十代後半東京で空襲を経験しております。雪の函館を抜け出したことなど「おしん」も真っ青な人生を送っていまして、時に話を聞くのが楽しみです。父は生まれて間もなく実母を失い、婿だった父(私にとっての祖父)に出て行かれ、育ててくれた祖母(曾祖母)に死なれ、母と見合い結婚しました。時に19歳。
この時代を生きてきた人は非常に辛抱強い。私たちの世代が伝統を壊してしまったのかもしれませんね。
オカピー
2005/12/04 02:54
TBいただきありがとうございました。
この映画の内容もそうですが、↑のコメントも読ませていただき、色々考えさせられることばかりです。
>クリーニング屋を切り盛りする母親は優しくて力強い
こんな母親の姿を見ていたら、子供は申し訳なくて悪いことなんかできませんよね。私自身も母親としてもっと考えなくてはならないことばかりです。
iyahay98
2006/09/29 17:55
iyahaya98さん、こんばんは。
自覚のある方なら大丈夫ですよ。
戦後の民主主義・個人主義が日本的に解釈されたのがそもそもの間違いであるというのが私の説です。やはり宗教という後ろ盾がない国における個人主義はどうしても利己主義に走りますから。そこへ豊かさが加わって、後は野となれ山となれ、といったまま流されてきてしまったのでしょう。
未来を憂えるばかりです。
オカピー
2006/09/30 00:27

コメントする help

ニックネーム
本 文
映画評「おかあさん」 プロフェッサー・オカピーの部屋[別館]/BIGLOBEウェブリブログ
[ ]